2012年2月23日木曜日

you are my angel


※砂春

※四ノ宮双子捏造設定

※ぴくしぶにUP済み









「四ノ宮砂月だ。得意楽器はヴァイオリンとヴィオラ。特にこれといって言うことはないが…そうだな。…那月と春歌を泣かした奴は、潰す。…以上」

ただでさえ体つきもよく、長身であり、威圧感を発しているにも関わらず、
その第一声と鋭い眼光でさらに周囲を怖がらせた彼は、しかし気にした風もなく席に着く。

一瞬しーんとなったHRの自己紹介の一場面は、しかし翔がなんとか場をつないだらしく
何事もなかったかのように進んでいった。
しかしながら、そんなことは砂月の存するところではなかった。

もともと特段アイドルを目指しているわけではない彼は、
アイドルと作曲家の育成を掲げるこの学園に大して期待を抱いていなかった。
もっとも、物欲も薄い彼が執着を抱くのは
彼の双子の兄である四ノ宮那月と幼馴染の七海春歌だけ、といっても過言ではないのだが。

そもそも砂月がこの学園に入学したのは
彼の世界を作り上げる人物達を守り、そばにいるためだった。

しかし、そんな守るべき存在とクラスが別になってしまうというのは痛かった。

大して本気で受けたわけではないクラス分けのテストの結果、
砂月はSクラス、那月と春歌はAクラスになってしまったのだ。
――大方那月の場合はダンスで減点され、春歌は当日の体調不良と緊張が原因なのだろうが。

こうなるとわかっていたのならば、もっと本格的に手を抜いたものを。

砂月は眉間にしわを寄せながら深く後悔したが、今となってはすべてが遅かった。
と、眉間に寄ったしわを伸ばすように細く白い指が砂月の目に入る。

「…春歌」

いつの間にかHRは終わっていたらしい。
そんなことにも気付かずに思考に耽けていた砂月は、
彼が思っているよりもこの状態に参っているのかもしれなかった。

「お疲れですか、砂月君」

眉をハの字に歪めて自分のことのように悩んでいる春歌の隣には、
同じように顔を歪めている砂月の兄の姿もあった。

「さっちゃん、大丈夫?やっぱり、クラスが離れちゃったら寂しいよね。…僕、学園長先生に頼んで…」

「那月。いい。なんでもない。余計なことはするな」

ただでさえ、厄介な校則のせいで入学前から目をつけられている。

「さっちゃん…」
「砂月君…」

「…うざい。なんだ、その顔は」

砂月が苦笑すると、那月はもう我慢できない、とばかりに砂月に抱きついた。

「さっちゃんっ!!寂しいよ~~~!お部屋も違うし、クラスも違うなんてっ!」

「…結局、お前が寂しかったんじゃねえか」

呆れ顔をしつつ、甘えてすり寄ってくるその頭を撫でてやると、
那月はほっと息を吐いた。

「ごめんね、さっちゃん。僕がこんなんじゃだめだよね。しっかりしなきゃ…。ハルちゃんは、僕がちゃんと守るからね」

にこにこと二人の様子を見守っている春歌に聞こえない声で呟く那月に
砂月はらしくないことを、と内心思いつつも頷いた。

「ああ、頼んだ」

砂月とて那月がこういうのもわからなくはない。
3人でいつも一緒に居るのが当たり前で、こうして離れたことはなかった。
学年が2個下の春歌はともかく、
砂月の破壊神ぶりと那月の天然無自覚暴走を
担任や学校側に危惧されたのか、
双子は今まで一度もクラスを離されたことはなかったのだ。
思春期を迎えても部屋も同じ。
離れたい、と思ったことはなかった。

寂しがり屋で甘えん坊の那月にしたら、とてもつらいだろう。
せめて、那月が一人離されなくてよかった、と考えるべきか。

なんとかこの状況を納得しようとする砂月の前では
春歌が涙目の那月を慰めている。
ハルちゃんっ!と那月が抱きつき、
春歌が母親のように宥める様子はその体格差から見てどこかおかしかった。


◆◆◆


俺たちと春歌が出会ったのは、俺たちが7歳であいつが5歳の時。
とある音楽教室で今にも泣き出しそうなあいつに
那月がかわいいっと抱きついたのがきっかけだった。

それからというもの、なぜか懐かれた俺たちはいつも一緒だった。

春歌は不思議な奴だった。
人見知りが激しく、泣き虫で、怖がりで、ドジで、単純で、鈍感で、
無邪気で、純粋で、時折頑固で、でも優しく、温かい。
あの小さな体ですべてを受け入れ、時に傷つきながらも、
それでも真っすぐに前を向く強さを持っている。
だからどこか不安定でほおっておけない。

俺の冷たい態度にもめげずに砂月君、砂月君、と笑いかけてくる様子に
懐柔された俺はなんだかんだと世話をやき、
那月と同じくらい、もしかしたらそれ以上に春歌を大切にしてきた。

だから、とあるアイドルに触発されて作曲家の夢を抱いたあいつと
バイオリン演奏者になることに疑問を感じていた那月が
早乙女学園を目指していると知った時、俺の選択は当然のごとく決まっていた。

それを後悔する気持ちはない。

俺にとって那月や春歌の存在は無くてはならないものだったし、
あの2人ありきで俺だ。
それを誰にも否定はさせない。


俺はあの二人を守るためなら何だってやってきたし、
これからもそうしていくつもりだ。

むしろ、俺はあいつらを守ることで自分を守っているのだから。


◆◆◆


春歌が倒れた、と砂月が聞いたのはSクラスでバラエティの演習をしている時間だった。

砂月の毒舌と翔やトキヤのそれを諌める突っ込みやレンの掛け合いがなぜか受けるらしく、
不本意ながらもそれなりにクラスの雰囲気に馴染んだ彼は、
しかしめったにその不機嫌そうな表情を変えることはない。

そんな彼が「ハルちゃんがシャイニーのせいで倒れちゃったのよ、どうしよう~~~」と
日向に泣きついてきた月宮の言葉を聞いて
普段ではありえないほど取り乱して動揺を露わにした。

無言でその場を駆け出し、機材や扉にぶつかりながら外へ飛び出したのである。

その場にいた者はその姿に信じられないとばかりに目を剥いた。

「今の、絶対超痛かったよな・・・」とつぶやいた翔や「愛だねえ」と口笛を吹いたレン、
「おい、今実習中だぞ・・・」と呆けた日向、「あら」と楽しそうにほほ笑んだ月宮。
トキヤに至っては呆れを通り越して無言だ。

彼らが砂月より少し経ってから春歌のもとに着いたのは
砂月のそんな姿を面白がっていたからなのだが、
幸か不幸か、そのことは砂月だけは知らない事実である。



「春歌!」

全力ダッシュで駆けつけた砂月を待っていたのはシャイニング早乙女である。
思わず殴りかかりそうになったが、春歌が寝苦しそうに寝返りをうったことに気づき、
一先ず春歌を優先した。

呼吸も安定しているし、外傷はない。
特に変わった様子もなさそうなので
多分もともと寝不足か貧血ぎみだった影響もあるのだろう、と安堵する。
そしてやっと冷静になった頭で、
よく詳細を聞かずに飛び出してしまった自分の余裕の無さを振り返って
なんとも言えぬ気持ちになった。
寝ている春歌の髪を一撫でするとふにゃんとほほ笑む様子に思わず砂月の頬も緩み、
自分が溺れていることさえどうでもよくなってしまったが。

「ユーたちは愛し合ってますネー?」

と、すっかり忘れかけていた存在からの問いかけに
砂月は邪魔されたことに対してのイラつきと
春歌が倒れた直接的原因がこの人物だということも思い出し、
大の男が裸足で逃げ出すほどの険しい顔で凄んだ。
もっとも、この人物にはそんなことはどこ吹く風だ。

「ああ?」

「調べはついてマース。ユーたちは入学前からってことで今までは見逃していましたが、これからはそうもいきまセーン。ミーは公平!公平!公平なのヨ~ン!」

入学してからそれなりに時間も経ち、みな馴染んできたことによって
最近恋愛禁止令を破る生徒が多いことが
このいきなりの今更過ぎる早乙女の行動に関係しているのだろうと砂月は当たりをつける。
二人の関係については砂月から牽制を込めて春歌の周りにのみバラしているので
事実を知る者たちからは前々から気をつけろよ、とは言われていた。

「・・・だからどうした?俺たちを退学にでもする気か?」

凄んだ顔をさらに険しくさせた砂月に、
早乙女はふざけたいつものテンションから一転して真面目な声で答える。

「本来ならばそうしたいところだが…。お前たちの才能は目を見張るものがある。ここで失くすのは惜しい」

「へえ?」

砂月は挑発するような目つきで早乙女を見る。
早乙女はまさに芸能界のドンにふさわしい威厳のある声とまなざしでそれを見返す。

「…しかし、今のお前を見ている限り、今後は不確かだがな」

「…」

砂月はアイドルになど興味はない為、そう言われてもなんの感慨も浮かばないが、
春歌のことは別である。

砂月たちの後ろに隠れたばかりだった恥ずかしがり屋で自分に自信を持てないあの幼馴染が、
初めて自分の気持ちを堂々と告げ、目を輝かせて語った夢。

夢を持ってからの春歌は変わった。
少しずつ、少しずつ。
俯き気味だった顔をあげて。
砂月たちだけのものだった笑顔を常に見せ。
つらさを、苦しさを、悲しみを、涙を、砂月たちにさえ隠すようになった。

それを成長と呼ぶなら生まれた寂しさには納得がいくが、
同時にそんな危うい春歌を以前より強い気持ちで守りたいと思った砂月は
その時ようやく自分の気持ちを自覚した。
那月にそんな感情をぽろっとこぼしてしまった時、
今更ですね。僕はちゃあんと知ってましたよ、と
めったに見ない兄らしい笑顔を浮かべていた。

自分が春歌が変わるきっかけになれなかったことに嫉妬を覚えないでもないが、
その代わりに春歌の夢を叶えてやることができるのは自分だという自信は
自惚れや驕りなどではないと信じている。


「お前たちがパートナーになることを許した意味を、忘れるなよ」

「…わかった。…上等じゃねーか。なってやるよ、トップアイドル」

早乙女の言わんとすることに気づかないはずがない砂月は
高慢な笑みを浮かべると、早乙女もいつものらしい態度に戻り、ニヤッと笑った。

「ハッハッハーーー!楽しみにしてマース!男に二言はナシヨ!それと、ちゃんと節度を保った行動をネ!」


「っておい!てめ、待て!まだこっちには話が…!」


言うだけ言っていつものごとく突然窓ガラスを割って飛び出していった早乙女を
まだ春歌が倒れた件について問いただしていなかった砂月は引き留めようとするが、
あの男は流石に砂月でさえ止められなかった。
後にはハッハッハーと高らかな笑い声と砕けたガラスが残っただけだ。

くそ、と砂月が毒づいていると、ガラスが割れた騒音で目を覚ましたのだろう
きゃあ?!と驚いたような春歌の声が聞こえた。

とりあえず、事情は春歌に聞くことにした砂月は起き上がっていた春歌の傍に寄った。

「春歌」

「…砂月君?…あれ、私…?…確か、学園長先生にアッタクされたような…?」

まだ困難気味の春歌の言葉に砂月はあのオヤジ、今度会ったら覚えてやがれ、と
内心で復讐を誓いつつ、表面上は春歌限定の淡い笑みを浮かべて体調を尋ねた。

「…大丈夫か?」

「はい。ちょっと体当たりされたぐらいですので」

体当たりなどでは普通は倒れないだろうが、あの男と春歌の体格差も考え
砂月のこめかみの筋がぴきっと音をたてた。

「…あのオヤジには俺が後で礼をしておく」

「?あ、そうですよね。ここまで運んでくださったんですもんね」

見当違いな解釈をしている春歌を流し、砂月は白い柔らかな頬を撫でる。


「春歌」

名を呼ぶと、まるでおひさまのような温かい笑みを浮かべて
はい、と返事をする春歌を目を細めて眺めた砂月はたまらなくなって抱きしめる。


恋愛禁止令。
そんな学則など、知ったことか。

衝動にまかせて口づけると、心が、身体中が満たされていく。力が湧く。

これ以上に大切な存在など、砂月は那月以外に知らなかった。
この愛を貫くためならばなんだってやってやる。

この笑顔を守り、傍にいるために必要ならば、
トップアイドルにだってなってやる。


貪るような口付けに酔っている春歌を
さらに強く抱きしめた砂月の瞳には決意に満ちた光が灯っていた。

アイドルなどどうでもよかったはずの彼が、
春歌との未来のために本気になり始め、
その様子に早乙女が計画通りデースと笑っていた、とは蛇足である。


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私は砂月が大好きです!




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