※レン春
※死ネタ
※捏造
※これとシリーズ。こっちのが流れ的に前。
※ぴくしぶUP予定。
彼女は、とても無欲な人だった。
誕生日に何がほしいと尋ねれば、
ダーリンがいてくれればそれでいい、とレンのハートを打ち抜いた。
でも、トップアイドルを独占するなんて、罰が当たってしまいますね、
と彼女は笑っていたけれど、レンは何が何でも叶えてみせた。
事務所からの小言をもらっても、
その前の週とその後の期間に全く休みがなかったとしても本望だった。
(彼女に無理をしたことがばれてすごく怒られてしまったとしても、だ)
彼女はとても周囲を気遣う、遠慮深い人だった。
レンが知る限り、彼女が我がままらしい我がままを言ったのはたった一度だけ。
もっともそれすらもレンと願いに沿う、可愛い願いごとにすぎなかったが。
『自分が携わった曲以外の曲を歌わないでほしい』
謙虚で自分を過小評価してばかりの彼女にしてみれば、
とても贅沢で、恐れ多いわがままだったのだろう。
レンを上目遣いで伺い、うるんだ瞳でおねだりされた時は
状況も忘れて押し倒しそうになった。
レンさんの魅力を出し切る、素晴らしい曲を作れるのは私だけでありたいんです、
と誇り高く、決意を語る彼女は、とても美しく、輝いていた。
そしてその願いどおり、レンは今まで春歌が作曲・編集した曲以外は歌っていない。
バラエティーなどでの替え歌、本人になりきりのカラオケ番組、
音楽番組でカバーやコラボを頼まれても、レンは一切断った。
事務所や関係者には顔をしかめられたが、レンはそれでもその行動を貫いた。
その代わり、春歌との新曲ではサービスを心がけたし、他の仕事で返した。
もちろん春歌も、レンが歌う曲以外の曲は作曲していない。
押しの強い友人に頼まれて編集・編曲をしたことはあるようだが、
大体はBGMや歌のつかない曲のみを作っていた。
春歌の才能を考えれば、ドラマやゲームのBGMが仕事とはもったいない
という声もないわけではなかったが、レンの歌声を独占しているのが申し訳ない、
と彼女は売れっ子作曲家にもかかわらず、比較的新人が請け負う仕事も多くしていた。
彼女は最期まで無欲で、周囲を気遣ってばかりの、遠慮深い人だった。
死期を悟っても、彼女は
レンにいつもどおりにしてくれればそれでいい、と細い体で笑っていた。
トキヤの話では、ST☆RISH全員と事務所に
自分がいなくなったら、レンさんをよろしくお願いします、
とわざわざ頭を下げに行ったらしい。
本当に、いつも人のことばかりで。
なんて。
いとおしい、
レンが持てる力すべてを使って特効薬や優秀な医者、医療方法を
世界各地から血眼になって捜していると、それを止め、
ただ自分の運命を受け入れていた彼女。
自分の力では起き上がることもできなくなった彼女は、
ただ歌を口ずさみ、音楽を奏でていた。
「・・・はじめて聞いた歌だね。・・・新曲?」
「ふふふ。・・・レンさんへの、愛の歌ですよ」
かすれた小さな声は、いつも以上に彼女を儚げに見せた。
このままどこかに消えてしまいそうで、レンは怖くなった。
いったいどのタイミングで、彼女はその呼吸を止めるのか。
自分は、その場に立ちあうことができるのか。
彼女は、苦しくはないのだろうか。
――その時、自分は、どうなってしまうのだろう。
「ねえ、レンさん。知っていましたか?」
彼女に無理をさせたくなくて、そして自分が安心するためにも
彼女に触れていたくて、抱きしめて彼女の唇が耳元にくるような体勢をとる。
「曲は、作曲家から歌い手への愛情なんですよ」
「・・・うれしいことを言ってくれるね。じゃあ、俺は、ハニーの愛をずっと独り占めしていたんだね」
悪いことばかりを考えるぼんやりとしていた頭は、
彼女の愛の告白とも言える言葉で一気に覚醒してただ愛しさだけが募った。
あふれ出る想いを止められなくて、俺は幸せ者だ、と頬にキスすると、
彼女はくすぐったそうに身をよじって笑った。
最近の彼女は、本当によく笑う。
きっとレンを気遣っているのだろうとわかるから、
レンはやっぱり切なくなって、苦しくなるのだ。
「私の方が幸せ者です。・・・あなたの愛を、独占してしまった」
だから、罰があたったんですね。
ぽつり、と呟いた言葉は、諦めの入った、とても残酷な響きだった。
彼女らしくないその言葉に思わず身を離すと、
彼女は病に臥してからけして見せなかった涙を浮かべていた。
「っ、そんなことあるわけがない!そんなこと、あってたまるかっ!」
レンの否定に彼女はただ首を横に振って小さな声で謝った。
「…あなたの歌には、愛がとても多く込められていて、独占したかったんです・・・」
まるで懺悔するように告げるその言葉には、後悔が込められているように感じて、
レンはどうしようもない絶望を知った。
嫌な予感を止めたくて、彼女をかき抱くように再び腕の中に閉じ込めると、
もとから細くなっていた体がさらに細くなっていることに気づいて
さらなる恐怖がレンを襲った。
嫌だ、嫌だ、まだ、失いたくない・・・っ!
レンのそんな叫びが聞こえたのか否か、
彼女はゆっくりと手を伸ばし、レンの髪を撫でる。
「レンさん。本当は、もう少し、あなたのそばにいたかった・・・。あなたの歌を、あなたの愛を、感じていたかった・・・」
「・・・これからだって、何度でも、感じさせてあげるよ?・・・俺の愛は、君だけのものだからね」
「・・・はい。・・・はい」
彼女はただ頷いて、最期に愛の言葉と感謝を告げて、目を閉じた。
◆◆◆
「・・・春歌。俺を幸せにするって言ったのは、君だろう?・・・なのに、君なしで、どうやって俺に幸せになれというの?」
雨の中、呟いた言葉に返答はなく、レンは黙って自身を呪った。
もう、この世界に彼女はいない。
そんな世界に一体どんな意味があるというのだろう。
そう思ってもレンがいまだに呼吸をしていられるのは、
彼女と目指した世界にまだ立っているからだ。
しかし、彼女亡き今、自分がもう2度と歌うことはないだろうとぼんやりとレンは考える。
彼女との、約束だ。
涙がいっこうに出ない自分を不思議に思いつつも、
レンはただその場に立ち尽くした。
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春ちゃんの名前を出すとなんか申し訳なくなるので
3人称気味に書いたのですが、所々文的に苦しかった…。
そして夢っぽい感じになってしまった…。
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