※①の続き
※八晴
※御子柴+八雲(自己補完設定有り=捏造有り)
最初は特に気にしていなかった。
特に隠していたわけじゃないし、
やましい感情を持ってたわけでもない。
だから別に何も思わなかったし、何も言わなかった。
それだけだ。
でも。
彼女がふと見せた寂しそうな横顔と、
どこか不安そうに潤んだ目とか、悲しげに震えた声が、
なぜか僕の心をくすぶった。
◆◆◆
それは本当に極まれの出来事だった。
御子柴の確立論でいうならば、それこそ天文学的数字で、
めったに起きないだろう出来事。
しかし起こってしまったのだから仕方がない。
そもそも確立は0かそれ以下にならない限り、
常に起きる可能性を含んでいることを示唆している。
だから、それは起きてもなんら不思議ではないことだったのだ。
彼女は僕が御子柴の研究室に時々顔をだしていることを知っているし、
彼女が僕のもとを訪れるのも、
僕の狭い行動範囲から僕の居場所を突き止めるのも、確立はけしてそう低くはない。
前置きが長くなったが、つまり、彼女は御子柴の研究室を訪れた。
―――偶々彼が席を外していて、
僕と御子柴の助手・矢口という女性と2人っきりの研究室に。
たまたまコーヒーが出され、
たまたまチェスはまだ大して進んでいない。
たまたまカーテンは締め切っていて、たまたま窓も開いてはいなかった。
少し暗くなってきた、夕方過ぎの室内。
そこに男女がふたりっきり。
彼女は初めて見る矢口に驚いたように目を見開き、固まった。
出て行こうか、それともとどまるか、迷っているように困惑した表情。
僕はチェスの次の手を考えていて、そんな様子の彼女を放っておいた。
用事があるなら告げるだろうし、
ここまできて何も言わないまま帰るはずがないと思い込んでいた。
矢口は困惑している彼女に気づいた様子だったが、
特に何も言うことなくチェス盤に目を戻した。
沈黙が流れ、彼女はその空気に堪えられなくなったかのように
研究室を出て行った。
僕はそんな彼女を不審げに見送ると、矢口が口を開いた。
もっとも、その目は相変わらずにチェス盤を見ていたが。
「追いかけなくていいの?」
「・・・なぜ?」
「・・・彼女なんじゃないの?」
「・・・だから?」
「・・・以外と鈍いのね。・・・誤解、してるんじゃないの?」
矢口は僕の様子にため息を吐くと、
別に私はこのまま勝負を続けてもかまわないけど、
とやっとチェス盤から顔を上げて頬杖をついて僕を見た。
僕は一瞬固まって、気づいた時には立ち上がって全力で走りだしていた。
別に彼女に女性と二人きりの所を見られたからといって
僕がいいわけをしなきゃいけないことなんてないし、
夕方に女性と二人きりになったことなんて
心霊現象の依頼に来た女性と何度もある。
彼女とだってそれこそ夕方だけじゃなくて
夜も数えきれないくらい一緒に過ごしてきた。
でも、自分だったらどうだろうか、と走りながら考える。
彼女が日が暮れる頃に僕以外の男と密室に二人っきり。
・・・ああ、駄目だ、考えただけで頭に血が上る。
きっと彼女は何も考えてはいないだろうけど、
僕だってそんな状況を見たくないし、
そんな状況になって欲しくない。
嫌だ、ごめん。すまない。
心の中で謝っても、彼女には聞こえない。
そしてスタートダッシュの差か、普段とろい彼女にはなかなか追いつかない。
悔んでさらにペースを上げると、やっと彼女の後ろ姿が見えた。
どうやら転んだらしい。
無理して走るからだ、と捻くれた第一声をかけると、
彼女は僕の声に驚いたように顔を上げた。
目が潤んでいて、泣かせてしまったか、と一瞬焦るが、
彼女が再び顔を下げてしまったのでよくわからなくなった。
「おい、大丈夫か」
「・・・平気」
「・・・なら立て。・・・ほら」
手を差し伸べるが、彼女は俯いたまま手をとろうとはしなかった。
なんだかそれが癇に障ってむっとする。
「・・・自分で立てるなら早く立て。そんなところで座り込んでいると邪魔だ」
「・・・ほっといて」
聞こえた声が涙声のような気がして僕はまた焦った。
君が思っているようなことじゃない、と告げるが、
すこし戸惑った声になってしまったかもしれない。
失敗した。
どうしてさらっと言えないのか。
「・・・何が」
彼女は身を小さく震わせる。
僕はなんだか自分が悪者になったような居心地の悪さを感じていた。
「だから、さっきのチェスは御子柴教授と・・・」
「うん、・・・わかってるよ」
彼女はそういうとゆっくりと立ち上がった。
足がもつれそうになっていたから支える。
彼女は今度はそれを受け入れるとごめん、と小さな声で呟いた。
僕に聞こえなくてもいいと思ったのか、それはあまりに小さな声だった。
「でも、嫌だったんだ。・・・でも、もう、大丈夫だから」
全然大丈夫ではない顔で微笑む、
その彼女のさびしそうな、かなしそうな、不安そうな様子が、
僕の心に突き刺さった。
僕が、彼女にこんな顔をさせたんだ、と思ったら
自分自身を殴りたくなった。
「・・・その気持ち悪い顔を止めろ」
「もうっ!すぐそういうこというんだから。失礼だよ」
なんとかいつも通りの会話にもっていきたいのか、
彼女は無理に怒った顔をした。
どこかぎこちないその表情に、僕の胸は痛んだ。
「悪かった」
「・・・どうしたの?なんか八雲君が素直なんて気持ち悪い」
「茶化すな。・・・そうじゃない。そうじゃなくて、僕は」
「・・・いい。・・・謝らないで」
僕の言葉を制するように彼女は背を向けて歩き出す。
「・・・八雲君の時間だもん、八雲君がどう使おうと八雲君の自由だし」
「・・・」
「私に、何かいう権利も資格もないし・・・」
「晴香」
思わず呼んだ名前は、思いのほか効力はあったらしい。
彼女は黙ってそれ以上は何も言わなかった。
でも、それ以上僕は何を言えばいいのかわからなかった。
NEXT→
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御子柴よんでネタに使える!と思った矢口。
しかし、御子柴同様、キャラが掴めず難しい・・・。
3連作にしようと思ったのにまさかの4連作になりそうです・・・。
ああああ・・・。
つか、寝る前に浮かんだネタ、起きたら忘れた・・・。
結構良い感じで妄想できそうだったのに・・・。
うう・・・。
今度からはすぐにメモらなきゃだめですね・・・。
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