2011年9月1日木曜日

『許せるならば、きっと。』



※八晴←石←真前提

※未来捏造

※8巻ネタバレ有り






『許せるならば、きっと。』



初めて会った瞬間に天使だと思った彼女は、
やっぱり今も天使のような可愛らしさと可憐さで輝いていた。


真っ白なドレスを身にまとい、新郎にエスコートされて歩いている
晴香を、石井はまっすぐに見つめる。


綺麗だった。

彼の隣で心底幸せそうに、嬉しそうに笑っている彼女に
胸が痛まないと言ったら嘘になる。

だけど、きっと自分には与えることのできない幸福・笑顔。
それは彼がいてこそ得られるモノ。

悔しい。敵わない。

何度だって味わってきた思い。

でも、いい加減、この気持ちから卒業する日がきたのかもしれない。


「綺麗ですね」

「…はい」

隣で微笑んでいる、彼女のためにも。

諦めがつくまで待っている、といってくれた真琴。

自分がなかなかこの想いを乗越えらないのだと、捨てられないのだと、
情けない表情で、未練たらたらなありのままを伝えたら、
彼女は当たり前のように笑ったのだ。

そんなの、わかっている、と。
そのさらっとした男前の笑顔が、なんだか忘れられない。

そして、どうやらこの想いは、ほとんどの人に見透かされているらしい、
と石井が気づいたのはその瞬間だった。

晴香だけが気づいていないのが、石井にとっては幸いだが。


晴香ちゃん。
天使のようなその笑顔と優しさに、私は何度救われたことでしょう。

初めて、心奪われた人だった。

この人の為だったら、なんでも出来ると思った。

刑事として半人前で、男としても情けなくて弱い私を
変えてくれたのは、きっと、彼女だった。

刑事として尊敬していた後藤がいなくなったとき、
弱気になった私を怒って、諦めないことを教えてくれた、導いてくれた人。

憧れだった。
いつだって、好きだった。

彼女に、似合う男になりたいと思った。
彼女を守れるくらい、強くなりたかった。

意地悪でひねくれ者の彼から、
彼女を奪えるくらいの度胸や自信がほしかった。

でも。

彼女が笑うその場所は、いつだって彼の隣なのだ。




「石井さ~ん!真琴さん~!!」

「晴香ちゃん!」

晴香が手を振ってこちらに来る。
もう一人の主役は、こんなときだというのに、
いつもどおり眠そうで、だるそうで、
本当に、こんな男が晴香にふさわしいのか、と疑ってしまう。


「今日はお忙しいのに、きてくださってありがとうございます!」

「こちらこそお招きありがとう。そしておめでとう晴香ちゃん、八雲君」

「ありがとうございます!」
「・・・ありがとう、ございます・・・」

「ふふふ。八雲君たら照れちゃって。あ、晴香ちゃんがあまりにも綺麗だから、戸惑ってるんでしょ?」

「なっ・・・!ま、真琴さん?!」

何言ってるんですか?!と、顔を赤くする晴香。
そして同じく赤くなった顔を隠すように八雲はそっぽを向く。

結婚したというに、初初しい彼らの様子に真琴は小さく笑う。

「・・・石井さん、少し、いいですか」

この場を切り抜けるためだけではなく、
八雲が確かな意志を持った様子で口を開く。

「・・・八雲氏・・・」

「・・・八雲君?」

両者の緊張を感じ取ったのか、晴香が不思議そうに
首をかしげた。

「晴香ちゃん!私と写真とろっ写真!」

「え?でも、だったらみんなで・・・」

「いいじゃない、それはまた後で♪」

「え、ちょ、真琴さん?」


そして空気をよんだ真琴が晴香を引っ張り、
石井と八雲がその場に残された。
お互い向かい合ったままた立つ。


以前は2人きりにされるのが、とても恐ろしかった。

だがいつの間にか、彼を頼りにすることが多くなっていった。
それと同時に、彼から頼みごとを任されることも増えていった気がする。


「・・・石井さん。・・・貴方には、言わなくちゃいけないと、思っていたことがあるんです」

「・・・八雲氏・・・」

「・・・僕は、正直、あいつを、幸せに出来る自信なんてありませんでした」


(ああ、過去形なんですね)

石井は、八雲の言葉に目を細める。
自分は、いつまでも、そんな自信を持つことができないのに。


「今でも、すこし、迷っています。・・・ほんとうに、僕でいいのかって」

「・・・」

「だけど。・・・あいつを、誰にも渡したくないんです」


真剣な、目だった。
少し震える、しかししっかりとしたその声は、
いつか聞いた電話ごしの彼を思い出させた。

あのとき、彼は言ったのだ。

<僕と出会わなければ、こんなことにはならなかった。>

<でも、そうは思いたくないんです。>


不安だろうに、心配だろうに、
まだ諦めを見せない彼に、負けた、と思った。


後悔はある、と彼は言った。

でも、後悔をしない為に、彼は、こんなに必死に、彼女を。


「・・・石井さん、貴方にも、譲りたくありません。・・・あいつを、幸せにするのは、僕でありたいんです」

彼の、まだどこか悩んでいるようでいて、
瞳の奥には覚悟を秘めた様子を見て、
石井はすこし涙ぐみながら、それでも無意識に微笑んでいた。


わかっていたことだ。

彼女の笑顔を見れば、一目瞭然。

誰が、彼女を幸せに出来るのか、なんて。


「・・・私は、晴香ちゃんが、好きでした」

「・・・はい」

「・・・彼女を、ずっと、みていました」

「・・・はい」

「・・・でも」

石井は、息を大きく吸った。
八雲は石井が何を言うのか、
予想が付かない様子で石井の言葉を待っていた。

「・・・八雲氏。・・・晴香ちゃんを、幸せにするのは、貴方です」

「・・・石井さん・・・」

「でなければ、許しませんよ。・・・晴香ちゃんは、僕の、天使だったんですから」

「・・・はい。・・・約束します」


2人の間に張り詰められていた緊張の糸が解ける。

まるでそれを見計らったように、晴香の無邪気な声が響いた。

「八雲く~ん!!石井さん~~!」


晴香の笑みに息を吐きつつ、
八雲は毒をはく。


「・・・能天気なやつだ」

「む。なによ~~!奥さんに向かって!」


じゃれ合ってる2人の様子を見つつ、
石井はなんだか心の枷がなくなったように感じていた。

今なら、言えるだろうか。


「・・・晴香ちゃん、・・・幸せ、ですか?」

「石井さん・・・?」


八雲が、緊張しているようにどこか硬くなり、
動きが強張る。

そんな八雲の様子に気づかない晴香は、
どこかいつもとは違う石井に違和感を覚えつつも、
次の瞬間には満面の笑みを浮かべた。

「はいっ」

「・・・そうですか。・・・良かった」


予想したとおりの答えだ。

わかっていた。

最愛の人との結婚で、幸せじゃないわけがない。

彼にも、聞こえただろう。


今まで2人が付き合うことや、婚約、結婚が決まっても
この言葉をいったことはなかった。


心から、言える気がしなかった。

でも、今なら。


石井は、泣きそうになりながらも、笑って告げる。
そして、晴香の今日一番の笑顔を見た。


「晴香ちゃん、八雲氏。・・・結婚、おめでとうございます」





***********************


石井さん視点の八晴結婚式。

石井さんと真琴さん、もしかしてまともに登場したの初…?



なんか長くなった~~~(汗)
結婚式が書きたかっただけなのに~~~(><。)
しかし、書きたいシーンが書けなかったんだ・・・(泣)
しかも最初のイメージと全然違うし・・・。
ああああ・・・。
没作品候補・・・。


あの素敵8巻シーンのイメージを崩してしまったら
すみません・・・。


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