2011年9月6日火曜日

『君が求めるそれは彼の必然』


※八晴



押せ押せゴーゴー八雲君!がコンセプト。


OK?







『君が求めるそれは彼の必然』




どうしてこうなったんだろう。


夕方の、少し薄暗くなったとある部室。
ほとんどの生徒はもう帰っただろうし、
なにより、普段でもこの部屋に近づく者はあまりいない。
よって、人がくることはまずないだろう。

後ろには壁。
両サイドには白いのに、そこそこ筋肉がついている逞しいと言っても
過言ではない男の腕。
正面には、吐息が感じられるほど近くに男の顔がある。

どうしよう。と思った時にはすでに遅く、
もう逃げ出すことは出来そうになかった。


―――つまり、小沢晴香は今、人生で何度目かのピンチに陥っているのであった。

いつもならば、絶対絶命の時でも最後まで救いを信じて諦めずに粘る。
絶対彼が来てくれる、助けてくれる、と。
しかし、残念ながら今回はそんなことは期待できそうになかった。

なぜならば、この状況をつくっているのは
他でもない、彼――八雲自身なのだから。



きっかけはほんの1週間ほど前のことだ。
石井にたまたま本屋であった晴香は、
仕事帰りの石井に車で送ってもらうことになったのだ。

事件時の石井の失敗や後藤さんと敦子さんの喧嘩など
の話をして和やかな車の中で、
八雲の部室――というか家というか――に忘れ物があることに
気がついた晴香は急遽、学校に送ってもらうことになった。
石井は校門前で待っていてアパートまで送ると言ってくれたのだが、
ついでに八雲のところでおしゃべりでもしていこうと思った晴香は
それを辞退し、校門前で別れた。
石井がすこしだけさびしいそうな、切ない微笑みを浮かべていたことにも、
それをサークルの仲間に見られていたことにも、まったく気づかずに。

そして晴香が気づいた頃にはもう尾ひれがたくさんついた噂になっていた。

なんでも、晴香は八雲と別れ、
外車に乗っている社会人、しかも公務員の年上の彼氏が新しくできたとか、
結婚は棒読みで、もう婚約までしているらしい、とか、
同棲していて、彼氏の方は晴香にべた惚れで、八雲から強引に奪い取った、とか。

シナリオライターも真っ青な、ドラマチックな物語に発展していた。
真実はもう1割も含まれてないんじゃないか、とまでいった展開に、
晴香は怒るどころか呆れを感じざるをえない。
所詮学生の暇つぶしなど、そういったゴシップしかないらしい。

まあ、噂などそのうちおさまるし、
石井さんにも迷惑になることはないだろう、と
たかをくくっていた晴香は、そのまま噂を放置することにした。

当事者の一人の顔が浮かばないこともなかったが、
彼がこの噂を聞いたところでどうなるとも思わなかったので
とりあえず考えないことにした。

(嫉妬してくれたら嬉しいけど、・・・まあ、八雲君だし。・・・無理だよね。・・・あ、もしかしたら噂自体興味もないだろうし、知りもしないかも。)

その事実が虚しいが、多くを求め過ぎるのは良くないだろう。
晴香は、八雲と付き合えるだけでも幸せなのでから、それでいいのだ。

少し、さびしいなんて、思っちゃいけない。

自分の中でとりあえず終止符を打った晴香は、
その後、このことを特に考えず八雲に会いに行った。

サークルやバイト、試験やレポートなどがあって
八雲に会うのは5日ぶりだ。
電話は滅多にしないし、メールは最低限。
それが当たりまえだったし、忙しかったので特に気にしてもいなかった。

しかし。

部室に入ったとたん、まがまがしいオーラを感じた。
そして冒頭に戻るのである。


こんな時であるというに、
正面にある赤い瞳に見惚れそうになっていた晴香は
八雲の声にふと我に返った。


「で?言い訳を、聞こうか?」

「えっと・・・?なんのこと?」

部屋の空気が、また下がった。
どうやら地雷を踏んだらしい。

「・・・知らないとは、言わせないぞ」

「え?」

「・・・僕は別れたつもりもないし、他の男に君を奪わせてやる気もさらさらない。が、・・・結婚とか、婚約とか、同棲とか、・・・車でドライブデートの後、キスしていたとか、どういうことだ」

声は低く、静かなのに、どこか迫力を感じる。

八雲をこのよう怖いと感じたのは初めてかもしれない。

「ちょ、あんなのただの噂に決まってるでしょ!ちょうど一週間前頃に、石井さんに送ってもらって、多分、その時に見られてたのが噂になっちゃっただけで・・・!だいたい9割以上嘘ぱっちだし・・・!」

どうやら、晴香が知らないバージョンの噂もあるらしいが。


「・・・石井さんに会っただなんて、僕は聞いてないぞ」

「言おうと思ったら八雲君が皮肉を言ってきたんでしょ!」

遅いだの、のろまだの、いつもどおりの会話といったらそれまでなのだが、
レポートやバイトなどでストレスが溜まっていたのか、
晴香がいつも以上に八雲の言葉につっかかり、
そして結局喧嘩別れ、といったふうになったのだ。
忙しかったのもあるが、連絡をしなかったのは
それにすこし気まずさを感じたのと意地を張っていたのもある。

「・・・5日もここに来なかったのは?」

「それは、テストとか、バイトとか、サークルとか・・・」

「・・・連絡もなかったが」

「八雲君だってくれなかったじゃないっ!」

「・・・君の方から噂の説明ぐらいするべきだろう」

「・・・八雲君、気にしてたの?」

それが事実なら驚きだ。
あの、八雲が。

目を見開いて心底驚いている晴香にため息をつきながら、
八雲は近かった顔をさらに近づける。

「・・・僕は、君の何だ?」

「・・・彼氏、です」

これ以上逃げられない晴香は、真っ赤な顔を俯かせつつ、
身を小さくさせながら小声で言う。

「そうだ。・・・恋人なんだから、僕は君の全てを知る権利があると思わないか?」

だいたい、と彼は面白くなさそうな声と顔で
当然のように言ってのける。
「君のことに関して、石井さんが知っていて、僕が知らないことがあるのが気にくわない」

「へ?」

予想もしていなかった言葉に、反応が出来ない。

つまり、それは、

「・・・ヤキモチ・・・?」

呆然と小声で言ったはずの言葉が聞こえたのか、八雲は眉間に皺をよせした。

「違う」

「って!違わないでしょっ!」

「うるさい!違うって言ってるだろっ!」

「もう!素直じゃなっ・・・っんっぅ・・・」

いつもより乱暴に、性急に求められる。

これでは逆ギレではないか。

酸欠でクラクラする頭でそう思いつつも、
八雲に届くわけはない。

とうとう自分で立ってられなくなった晴香がふらつくと、
八雲は離さない、とはばかりに腰を強く抱き寄せて支える。


「・・・で?」

「?」

「・・・覚悟は、できてるのか?」


必死に呼吸していた晴香を壁に押し付けた八雲に、
晴香の意識はさらわれていった。



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たまには雰囲気の違う話が書きたかったんです。
んで、私の書く晴香は八雲君のことが好きすぎだよなぁって思って
今回は八雲君に攻めてもらおう!ってことでこうなりました。

でも、いつもだって、八雲→→→←晴香
ぐらいの気持ちでかいてるんですけどねえ・・・。
女の子は愛されてなんぼだと思うんだ。


タイトル、実は君には二人の人が含まれてたりします。
誰でしょう?
あたった人にはリクエスト権を!(なんちゃって・笑)

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