SYK*閻金
※現パロ
【この関係に全てを流そう】
車のウインドウから見える夜景は綺麗といえるほどではない。
もっとも、もともとドライブではなく食事が目的であったから、それを不満に思うわけではないが。
車内にはラジオも音楽もついてはおらず、ただ沈黙だけが先ほどから流れている。
しかし、それに気まずさは抱かない。むしろ心地良かった。
この男と一緒にいることがここまで自然になったことを不思議に思う。
自分は今まで告白されたことは人並み以上だという自覚はあるが、おそらくフラれたことも人並み以上だ。
『俺のことなんてどうでもいいと思ってるんだろう。』
『君には俺って必要ないみたいだね。』
なんて言われるのが別れる合図。自然と連絡が途絶えたり、そのままさよならの言葉を告げられたり。
だから、きっとこの男ともそうなるだろうと思っていた。
しかしその予想は外れ、交際は過去最高記録を更新するほど順調だ。
この男の気遣いとも過保護とも取れる行動のおかげで。
「…どうした。」
目線は前方に向けたままこちらを伺っていたらしい男をちらりと見つめ、
日頃から疑問に思っていたことを尋ねる。
「…疲れませんか。」
「運転は嫌いではない。…それに、お前には任せられん。」
「そ、そういうことではありませんっ…!」
暗に運転下手なことを刺されて悔しさと羞恥で顔が赤くなるのをごまかすように少々声を荒げて否定する。
そんな必死の様子に男は口元を少し上げて低い声で笑う。
きっとこちらの聞きたいことなどわかっているのだろうに、本当に喰えない男だ。
――だからこそ、自分とこうも付き合っていられるのだろうが。
「…私と一緒にいて、いつも私を甘やかして、…大変なのではないのか、という話です。」
「…何故、そう思う?」
「…私が、自分勝手で我が儘だからです。」
「私はお前をそのように思った時は一度としてない。…誰かに何か言われたのか。」
「いいえ。そうではありませんが…。」
「では、何故だ。」
からかうような調子は消え、瞳に険しさが宿った。
返答次第では大変なことになりそうな予感に駆られて否定するが、
男は納得いかないようで再び問い返した。
「…しいて言うなら、経験…でしょうか。」
「…。」
男の片眉が上がる。何やら地雷を踏んだらしい。
「…過去の男がお前をそう評したのか。」
「…」
否定もせず、無言を貫く。しかしそれは時として肯定を表すこととなる。
「…気にいらぬ」
「…っ」
この男が嫉妬する質だとは思ってもみなかった。
驚いたが、執着されることに嫌悪感は抱かなかった。
過去の男に対してはあれほど疎ましく思い、遠ざけたというのに。
いつの間にか車は止まっていた。
目的地に着いたのか、路肩に寄せたのか、いったん寄り道して駐車したのか判断はつなかい。
しかし、周囲を確認する前に、男に引き寄せられて、もう何も考えられなくなってしまった。
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