※八晴
※付き合い後
たまたま食堂で八雲にお昼を奢らされていた時だった。
ふと聞き覚えのある笑い声が聞こえたような気がして後藤は顔を上げた。
するとやはり、少し離れた席に友達とお昼を食べているらしい晴香がいた。
なるほど八雲が不機嫌そうにお昼を奢れと言ってきたわけだ。
大方、いつもは食べることのできる晴香のお手製お弁当を今日は食べれないもんで、
借りの利子を払えという名目で後藤にお昼をたかったのだろう。
八雲はとっくに知っていたらしく、後藤が気づいたことに気づくと忌々しげに舌打ちした。
晴香が気づいていないことも八雲の機嫌を悪くしているようだ。
「ねえ、晴香はどういうタイプが好みなの?」
「あ、私も気になってた!」
「晴香、彼氏の話全然してくれないしさ。まさかこのぐらいは答えてよね!」
「私?…そうだなぁ。…優しくて頼りになって格好良くて、強い人…かな…。」
「そうなんだぁ。」
「うん。」
ガールズトークと言うらしい晴香達の話を聞くつもりはなかったのだが、
なんとなく耳が晴香達の声を拾ってしまう。
八雲も聞いていたのだろう。黙って目を伏せている。
自分とは正反対だと思っているのかもしれない。
「…でもね、自分じゃ全然気づいてないの。」
「え?」
「…。」
「…鈍くて、私の気持ちなんて全然わかってくれなくて、
自分勝手で自己中で皮肉屋で意地悪で天邪鬼でどうしようもないけど…。
でも、いつもなんだかんだ言って助けてくれて。
…こっちが切なくなるぐらい甘えるのが下手で…不器用で…目を逸らせなくさせる人。」
続いた晴香の言葉に八雲が目を見開いて拍子抜けしたような顔をしている。
こんな表情はレア中のレアだ。
もっとも晴香はもっとすごいレアなものも見ているのかもしれないが。
「何よ—晴香も結局ノロケ?一人身にはつらいわぁ—。」
「えへへ。」
「まったくもう幸せそうな顔しちゃってさ!」
「本当よ。聞くんじゃなかった〜。」
「結婚式には呼びなさいよ!」
「じゃなかったら晴香、今彼氏呼んでよ!あ!見たい!紹介して!」
「え—。」
晴香の否定的な声に八雲が俯く。
先ほど同様、随分とわかりやすい反応だ。
どうせ、左目を気にして自分が晴香にふさわしくないとか、紹介されるような人間じゃないとか
マイナスなことを思っているのだろう。
だいたい、晴香のあの表情を見てそんなことを思うようだから、付き合うまでに時間も苦労もかかったのだ。
「何よ〜もったいないとか言うんじゃないでしょうね?」
「…。」
「…はいはい。図星なのね。わかった。あんたはもうさっさと愛しの彼の元へ行くがいいわ。」
「えへへ。ごめん。そうする。なんだか八雲に会いたくなっちゃった。」
「あ〜も見てらんない!とっとと行った行った!」
「は〜い。ありがとう。じゃ、またね。」
「そのニヤケた顔どうにかしなさい!」
「はい!」
晴香が去っていった所で八雲が立ち上がった。どうやら早速晴香から電話がきたらしい。
八雲の顔が赤いが、突っ込むとそれは盛大に拗ねるので我慢することにした。
(…ラブラブな事で。)
なんだか奈緒と敦子に無性に会いたくなった後藤の耳には、まだ晴香の友達らしき人の話し声が聞こえていた。
「…でも晴香良かったね。」
「ね。片想い報われたんだね。」
「…でも、あの子なんだかんだでモテるのに全然彼氏作ろうとしてなかったから心配してたのに、なんか損したかも。」
「てか、もっといい人選べたんじゃない?」
「いいじゃない。相当彼氏に惚れ込んでるみたいだったし、本当に好きな人と結ばれる方が。」
「まあ、そうだけど…。」
「あ—あ。晴香の彼氏見たかったなぁ。」
「結構イケメンなんでしょ—?」
「うん。背も高かった!」
「へ—。」
…八雲が聞いていなくて良かったかもしれない。
というか、八雲の奴、やけに綺麗にテーブル片づけていきやがったが、まさか戻ってこないつもりか!?
俺は放置かよ?!
(あのクソ野郎!)
勢い良く立ち上がると後藤は八雲を追いかけるため駆け出した。
*********************
八雲と晴香がくっついて一番嬉しいのは一心さんだと思います。
んで、その次が後藤さん。
そして晴香の友達も祝福してくれるといいなぁという妄想。
多分泣く男子もいるだろうけど(笑)
0 件のコメント:
コメントを投稿