2010年5月22日土曜日

金魂 パラレル設定 短編3本 時間軸バラバラ

※オリジナル設定です。人物設定を読んでからをおススメします。







暗い路地裏に、ため息が響いた。



「・・・またですかィ。俺も隅におけねーや。生憎と、そんな趣味はねぇんですがねィ」
「俺だってねェよ。ただよ、うちの大将がお前のこと気に入ったみたいでよぉ、お前を組に入れるまで帰らせてもらえねェんだわ」
「へェ。それはそれは、随分と真撰組もお暇なんですねェ」
「・・・。・・・俺は、お前なんかどーでもいいし、仕事を真面目にやる奴だとも思っちゃいねぇ」
「ま、いい読みだと思いますぜ」
「・・・だが、」
「?」
「剣の腕だけは確かだと思う」
「・・・」
「近藤さんが一目で堕ちたんだ。あの人の目に狂いはねェよ」
「・・・お褒めに預かり光栄でさァ。だがこちとら志とかプライドとか、まったく興味もないし、そんな事のために動こうとは思わねェんでさァ」
「・・・だろうな。だが、・・・アイツは」
「!!お前如きが神楽にモノ言うなァ!!」



総吾の目が鋭くなり、いきなり剣にふる。



土方は間一髪でそれを避けるが、総吾はまだその動きを止めようとはしない。
バランスが崩れたまま、土方はなんとか総吾の剣を防ぐ。



「おまっ!!・・・ちょっ!!落ち着け!!くっ・・・」
「死ね!!」
「...っ!!」



土方が体勢を整えられず苦戦していると、女の声が響いた。
「総吾」
「!!・・・ちっ・・・。悪運がいい奴だねィ」



総吾は攻撃の手を緩め、その声のもとに近づいていく。
「まったく。何喧嘩売ってるネ。そんな子に育てた覚えはないアルヨ」
「・・・育てられた覚えもねェぜィ」
「反抗期アルカ?総悟」



神楽が泣きそうな顔で総吾を見上げる。
「・・・何マジでそんな顔してんでィ」
「帰って来ないから、心配したアル」
「へイヘイ。悪かったねィ」
「早く帰んないとあの眼帯にすき焼きの肉だけ食べられちゃうアルヨ!」
「・・・昨日は焼肉で今日はすき焼きかィ・・・。どんだけ肉食ってんでィ」
「うるさいアル!総吾!疲れたネ。抱っこしろヨ」
「はいはい、お姫様」
お姫様抱っこされている神楽を起き上がりながら見ていた土方を、総悟は冷ややかな瞳で一瞥すると、そのまま闇に消えた。


「総悟。あんま、大串君虐めちゃダメヨ」
「・・・珍しいですねィ。あんたが旦那以外でそんなこと俺に言うの」
「私、総悟が行きたいなら応援するアルヨ」
「・・・」




嗚呼。きっとこの人は。
その言葉が、俺にどんな想いを与えているかなんて考えもしないんだろう。
きっと、この傷ついた心にも、気づかないまま。
でも。それでも。 ここにいる事が、——隣にいる事が—— 今の自分のすべてだから。
だから。
・・・どうか、そんなことを、言わないで欲しい。




「総悟?」
「・・・考えときまさァ」
「・・・オウ」
風が冷たく吹くのも、きっとまた会うだろうあの野郎にまた剣を向けてしまうのも、 きっと運命でしかない。
でも、足掻いている 。
絶対に、コレだけは譲れない。

***************************




神楽の寝室。



その部屋に滅多に人をよばない神楽が総吾を招いたのはなかなか珍しいことだった。




「総吾。・・・昔話を、してあげるアル」



ソファで寝転がりながら、神楽は総吾の膝に頭をのせる。



総吾は神楽の髪を撫でながらキスを贈る。
「・・・何でィ。珍しいですねィ。あんたがそんなことを言うのは」
「そろそろ塩辛アルからナ」
「潮時な」
「そうとも言うアル」
「そうとしか言わねぇから。・・・あんた、やっぱもっと勉強しなせぇ。"夜兎"の女王ともあろうお方が頭弱いんじゃ笑いモンだぜィ」
「大丈夫ヨ。私の脳ミソの役目はもう任せてる奴がいるからナ」
「・・・」



神楽が頼っている男があの眼帯なのかと思うと癪だが、頭脳的には自分が彼の代わりにはなれないのだから仕方ないのだろう。



しかし、やっぱり面白くないのは当然だ。



自然に不機嫌になった総吾に神楽が宥めるように名を呼んだ。



「総吾」



その声にしぶしぶながら従う。



「・・・。・・・で、何が潮時なんでィ」
「色々アル」
「・・・」
「昔々、在る惑星にお姫様がいたアルヨ。そのお姫様はもう可愛らしくて美人でナイスバディで、もうみんなメロメロだったアル」
「へぇ」
「で、そんなお姫様を狙った在る集団がいたヨ。その麗しいお姫様を
「それはそれは、勇ましいお姫様ですねィ」
「惚れるダロ?」
「・・・まぁ・・・。押し倒したくなるぐらいには」
「ヤメロ」
「・・・。で、どうなったんでさァ?その麗しいお姫様とやらは?」
「立派に復讐を果たし、探し出した男と結婚して、それはもう幸せな生活を送ったアル。めでたしめでたしネ」
「...ホントにおめでたい話ですねィ。・・・こんなに不憫なお嬢様もいらっしゃるっていうのにねィ」
「・・・つまんない話だったロ?」
「いえ」
「ふぅん。本当カ?」
「もちろん。・・・ただ・・・」
「・・・?ただ?」
「・・・その男とやらは、殺してやりたくなりましたがねィ」
「・・・物騒な奴ネ。だから話たくなかったのヨ」
「・・・」
「さて。お伽話もしてやった事だし、早く寝ろアル」
「・・・お姫様に、聞きたいここがありやす」
「・・・何アルカ?」
「・・・そのお姫様を
「・・・何も、すんな」
「生憎、じっと黙ってられねェ性格で」
「・・・幸せに、なれヨ」
「・・・っ!!」
「・・・生き続けて、幸せに」
「...難しい、役目ですねィ・・・」
沖田は腕で顔を覆う。



嗚呼。神楽無しで、自分が幸せになれるわけがない。



本当に、このお姫様はなんと残酷なのだろうか。



「...総悟。おやすみアル」
「・・・最後に、お姫様のキスをくだせェ」
「・・・クソガキ」
「何とでも」
「...今日だけアルヨ」
「...本望でィ」






願わくは、貴方が私のいない夢を見るように。



——どうか、幸せな夢を——



叶わない想いには応えてあげる事が出来ないから。
せめて。 私のいない所で幸せに・・・。




********************


「大ー串ーくーんー」
「…」
「…おい、無視かヨ。そんなんじゃモテないアルヨ」
「…余計なお世話だ。というか、仮にも裏世界のボスが何を堂々と警察の前に・・・」
「あら。私を捕まえたいのなら、なんか証拠持ってきなさい」
「・・・」

ちっと土方が舌打ちする。証拠なんてもの、出てくるわけがない。
すべて、燃やして灰にしてしまうのだから。

「大串君」
「だから、その名前で呼ぶな。」
「・・・総悟は、いい剣士ヨ」
「・・・腕は認める。・・・だが、だからなんだ。」
「・・・私が、いなくなったら、きっと行く場所も宛ても目的もなくなるあの子が、辿り着く場所なんてない。きっと、私を追おうとするネ。」
「・・・なんだそれは、遠まわしの惚気か?」
「・・・そしたら、お前は死ぬ気であいつを止めろよ」
「・・・なんで俺が」
ふっと神楽は笑う。いつも見ているような貼り付けたような微笑じゃなく、本心の笑いだとわかるような。思わず目を見張った。
「お前はもう総悟に十分嫌われてるみたいだからナ。これ以上嫌われても痛くも痒くもないだろうと思ったネ」
「・・・」
はっとした。

しまった。何を見惚れているんだ。
そんな土方に気づいたように、クスッと神楽が笑う。
残念なことに、もはやそれは営業用の笑みでしかなかったが。
「大串君。約束アル」
「・・・誰がそんなめんどくさいとするかよ。俺ァごめんだ」
「大串君は止めるアル」
「止めねぇよ!」
「嘘ネ」
「・・・嘘じゃねえよ」

嘘じゃ、ねぇ。



土方の言葉が闇に響く。

そこにはもはや夜の女王の姿はなかったが、土方はその場で名残惜しむように呟いた。

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