2015年3月2日月曜日

王妃様はお悩み中につき。


※未来捏造(結婚済み)

※ぴくしぶUP済み
ちょっと追記あり。


隠しテーマはラスティンが呼ぶランの愛称のレパートリー(笑)




貴方は立派な素晴らしい国王。
頼もしく、優しく、時には厳しい態度でこの国を治めている。
臣下と国民からの信頼も厚く、諸外国からの評判も良い。
内乱もなく、彼の国策は上手くいって国は豊かだ。
きっと彼に不満を持つ者は少ないだろう。

それに比べ、私はどうだろうか?
彼にふさわしい存在と言えるだろうか?
自分の両親を批難するわけではけしてないけど、出自だって貴族の血なんて引くわけもない田舎の村の生まれだし。
過去に魔剣の乙女と呼ばれたこともあったけど、今は魔剣は消滅してしまっていて私はただの無力な女だ。
とりたて美人でも綺麗でもスタイルが良いわけでもない。
頭がいいわけでもないし彼の役に立てる特技もない。

そんな私が、どうしたら立派な王妃になれる?
貴方の横に立っても許される存在になれるの?
もっと上手に踊りや外交ができるようになったら?
もっと綺麗な礼儀作法と気品のある振舞いが身についたら?
もっと剣の腕を磨けばいい?
もっと貴方の存在に近づきたい。
この国に、貴方の傍に、私の居場所を見つけたい。
そう思うのは、私には過ぎた願いなのだろうか。


「ラーン」

考えこんでいた私の耳元で、甘く優しい声が名前を呼んだ。
腰に添えられた手が私を抱き寄せる。
こんなことをされて嬉しい人はたった一人だ。

「ラスティン!び、びっくりした。どうしたの?」

「なーんか、俺の大事な奥さんが深刻そうな顔で悩んでるから、ここは俺が癒してあげようかなって」

「!!」

「っていうのは口実で、俺がランに触れたかっただけなんだけどさ」

「もう…」

「いつまでたっても顔が赤くなって、本当可愛い」

「ラスティンったら…」

愛撫のように首筋や耳たぶ、頬に戯れに触れてくる唇にドキドキするのだから、逃げ出さないだけで十分頑張っているほうだ。
顔が赤くなることぐらい許して欲しい。

「で?何を悩んでるのかな?俺の大事なお后様は」

「や、やっぱり言わなきゃダメだよね…?」

「ダメ。つうか言わなきゃ無理。俺この後の仕事に手がつかなくなる」

「えっそれはダメ」

「そう思うなら話して楽になろうよ。ランの悩みも解決するし、俺もランの悩みがゆなくなって安心して仕事できるし、結果的にヴァイアザールの為もなる。一石三鳥だよ」

「それは大げさだよ…」

「全然まったくこれっぽっちも大げさじゃないよ。ランが俺に隠し事するとか、耐えられない。俺の、ひいては国の存亡に関わる大きな問題だ」

「そ、そう…?」

「そーなの。ラン、俺の気持ち軽く見過ぎてない?」

「そんなことないと思うけど…」

ラスティンが私を愛してくれていることは知っている。
でも。王が愛する王妃が笑いものになるようでは、愛される資格なんてないのではないかと思ってしまう。

「どんなことでも言ってよ。話してよ。俺達夫婦なんだから」

ぎゅっと抱きしめてくれる腕に安心する。
この人に寄りかかっても大丈夫なのだと思わせてくれる。
甘えるのが下手な私を上手に甘やかしてくれるこの手が私は大好きだ。

だからせめて望まれるままに素直になってみたいと思う。

「あ、あのね…笑わない…?」

「笑わない」

「呆れない…?」

「呆れない」

「ほ、本当?」

「本当。ていうか、なに。ラン、俺の愛を疑ってるの?」

「違う!ち、違うけど…その…自信がないの」

「自信?」

「私…何の力もないわ」

「え?」

「私は貴方を手助けする知恵も力も後ろ盾も何も持たない。…貴方のためになにもできない」

聞きたくなくても、偶にそれは聞こえてくる。
兵士が、女官が、城下の民が噂する声が。

『なぜ国王陛下はあのような貴賤で貧相な娘を選んだのだ』
『あんな立派な国王なのに、並んでる王妃がアレじゃあ…ねえ…』
『国の品格を下げるつもりかしら?』
『いったいどんな神経で嫁いだのかしら、あの役立たず』
『使えない王妃だ。ラスティン様も今に飽きるさ』

その通りだと思った。
私は何度とだってラスティンに助けれてきたが、私がラスティンにしてあげられることが、何もない。
私が王妃になって良かったことなど思う人など誰もいないだろう。

ラスティン自身だって、王族としての振る舞いもできぬ私に、知恵も力もない私に、呆れてるのではないかと思えば怖くなった。

「はあ…。何を言い出すかと思えば…」

一通り私の言い分を黙って聞いてたラスティンは、溜息をつくと、私の頬を一瞬つねった。

「いっ?!」

「ランが何もできないなんてそんなわけない。十分俺を癒して、愛してくれてるだろう」

「…え?」

「他の誰にもできない、ランにしかできないことだ」

「そんなこと」

「そんなこと?言っとくけど、俺はラン以外に癒されないし、ラン以外に傍にいて欲しいとは思わない」

ラスティンらしくないあんまりな言葉になんと言っていいかわからない。

「…王という立場は孤独だ。確かに多くの部下と民がいる。俺はヴァイアザールを愛しているし、国を、民を、守りたいと思うよ。でも、そのためには時に非情な判断を下さねばならない時もある」

「…そうだね」

ラスティンが王として苦悩を抱えてる姿を見たことがあるし、そんな時何もできずただ寄り添うだけの役立たずな自分が嫌だった。
思わず伏せた目を咎めるようにラスティンが頬を撫でる。

「そんな時、ランが傍にいてくれることが俺にとってどんなに救いか」

「そんな私は…」

「弱い俺を知っていてもランは俺の傍にいてくれる。こんな俺を受け止めて愛してくれる。好きな人が愛してくれて傍にいてくるなんて、それ以上の幸福はない」

「…だって、それは私が何もできなくても傍にいたいからで」

納得のいかない私を見て、ラスティンは軽く息を吐いた。
呆れないといったのに、と拗ねた瞳で見つめると、聞き分けのない子どもに言い聞かせるような態度で私に向き合う。

「だいたい、この前だって遠方の東国の外交官にベタ褒めされてたじゃんか」

「あれはただ彼の国の味付けに少しでも近い料理の方が食べやすいかなって思って料理長に少し言づけただけで料理は私がつくったわけじゃないし…長く船に乗っていて疲れて食欲なかったみたいだし、この国の文化に不慣れでカルチャーショック受けていたから…」

「ほら、そういうランの気遣いに、俺は助けられてる」

「え」

「おかげであの国との交易がスムーズにいったし、条件もウチの希望通りに便宜を測ってもらえた。ランのおかげだ」

「あれはたまたまで…」

「俺がランの優しさに助けられたことって掃いて捨てるほどあるけど、なんなら一個ずつ言ってみようか?」

「…」

どんな話を聞いても、そんなこともあったなと思うだけで、どれも自分の評価に繋がるなんては思えない些細なことだ。

「そもそも、この国を救ったのはランだろう」

「でも、アレは魔剣っていうかヴィルヘルムが」

「ランが俺と一緒に戦ってくれた。それがなにより俺は嬉しかったし、感謝してる。俺はランに助けれたし支えられた。逃げてばっかりだった俺を救ってくれて、ここまで変えてくれたのはランだ」

こつんと、額同士をくっつけあって、お互いのぬくもりを感じられる。
この時間が愛しかった。

「正直、ランがいなかったら俺は王になんてなってなかったし、この国だって危なかったかもしれない。…俺がこんなに王としての仕事放り出さず頑張ってるのだって、あんたがいるからだし」

「…ラスティン」

「あんたはそのままで十分立派な俺の大事な后だ」

「…っ」

「納得してくれた?」

「…ちょっとは…。…ごめんね」

「ちょっと…ねえ。まあ、いいよ。そういう真面目に考えこんじゃうランも可愛いしランらしい」

「…ありがとう」

「さーて、ランが自分に自信を持てるように、これから夫婦の愛をもっと深めようか?」

「え?何をいって…。それに仕事は…」

「大丈夫。実はもう今日の分は済ませてあるんだ。…ラン、俺の愛を見くびってるみたいだし?」

「そんなつもりは…!」

「それに」

「っん…」

毎日触れている唇。
でもなんだか今日は特別熱く感じてラスティンの本気を知る。
息もつけぬ口づけの嵐に呑みこまれ、溺れてしまいそうだ。

「外野からのくだらない中傷とか潮笑なんかで不安になる暇もないくらい、愛してあげる」

「ラス…ぁっ…」

「あんたの居場所は俺の隣だってこと、嫌ってくらいわからせてやるよ」

耳元で囁かれる言葉は悪魔のように私を誘う。
結局、私を知り尽くしている夫の技巧によって陥落させられ、次の日の朝にベットの上で憤死したくなったぐらい乱れてしまった。


◆◆◆

翌朝の一コマ。

「昨夜のランはいつもより感じてて本当に可愛かったし気持ち良「ラスティン!!!」」

「今更そんなに恥ずかしがらなくても」

「そういうことは言わないで!!」

「まあ、ランはそういうとこが可愛いんだけど」

「もう…」

「機嫌直してくれよ、俺のお姫様」

後ろからぎゅっと抱きしめられ、ご機嫌を取るように髪を撫でられる。
髪や頭を撫でられるのが好きだと、一度夢現の時に話したことを、ラスティンは大事に覚えていてくれている。
そういうところも大好きで、ランは結局ラスティンの思惑通り、些細なことなど許してしまうのだ。

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