※幼馴染八晴設定
※このシリーズの中学時代です
※オリキャラ最低教師、クラスメイトがでます
以上のことがOKな方のみ、どうぞ。
放課後。
部活動が始まる頃になると
廃部になって使われてない部室に幽霊でるという噂が広まり、
教師たちはバカバカしいとは思いつつも、
生徒があまりにも怖がるため交代で見回りをしていた。
今日当番に当たった教師は、不憫だったと言えよう。
その日、鍵がかかっているはずのその部屋は、
しかしドアが開いていた。
なんとなく嫌な予感がしつつも、その教師は導かれるように足を踏み入れる。
そこには。
片目だけ真っ赤な瞳を持った少年が、堂々と立っていた。
見覚えのあるその生徒は確かに自分のクラスの生徒だった。
痩身で成長期の男子としてはもう少し背があってもいいのではないか
と思う小さめな身長。
いつも顔色は悪く、目の下には隈があった。
しかし、いつもは確か両目とも真っ黒なはずだ。
いったい何が。
恐怖に染められた心のままに後ずさると、
その少年――斉藤八雲――は目を細め面倒くさそうに舌打ちをした。
伸ばされた腕が、なんだか気持ち悪く感じて思わず振り払う。
「ひぃっ!!」
いったいなんだ!
なんなんだ、その目は!!
「・・・お、小沢だ!小沢を呼べ!!」
いつもあの少年と一緒にいる少女。
幼馴染だという話だが、少年が唯一まともに相手をする存在。
彼女なら彼をなんとかできるのではないか?
そんな一抹の望みを賭けて彼は教師や大人としてのプライドを捨てて叫んだ。
部活が始まる時間帯だ。
この声はきっとその辺にいる生徒に届いている。
そう信じて声を張り上げた。
「お、小沢はどこだ?!は、早く、早く小沢をーー!!」
あまりの驚きと恐怖で腰を抜かし絶叫する教師を
感情の感じられない瞳で捉えながら
八雲は動くことなくその場に立っていた。
◆◆◆
「八雲君!」
八雲をなんとかしてくれと呼ばれた晴香は
だめでしょ!と腰に手を当てて偉そうに説教をする。
保護者にでもなったつもりか。
ここでまだ見下ろせれば溜飲が下がるのだが、
奈何せんまだ晴香の方が若干1.数センチの差で八雲より高い。
やっと同じくらいになった身長。
もう少しで抜かせるのに。
きっと、力だってもう俺の方が強いはずだ。
そんなことをどうして気にするのか、なんてことは深く考えずに
八雲は晴香の説教を聞き流していた。
「驚かすようなことしちゃみんな怖がっちゃうよ。どうしてもっと優しくできないのかなぁ」
「・・・君はいったい何様だ?俺のことは放っておけ」
「そういうわけにはいかないでしょ!八雲君、私が見てなきゃすぐにサボるし、無理するじゃない」
「・・・君に関係ない」
「幼馴染でしょ!関係あります!」
「・・・」
「・・・もう。また霊関係なんでしょ?幽霊さんだってきっともっと穏便に済ませて欲しがってると思うよ?」
「・・・なんだそれ」
そもそも幽霊の存在自体が穏やかではないだろう。
あれはすでに死んだ魂だ。
それなのに穏便もくそもないと思うのだが。
そう口にしようと思ったが、めんどくさくなって結局口を閉じた。
もういい。勝手に言わせておこう。
付き合ってられなくなった八雲は、きゃんきゃんうるさい幼馴染みを放置した。
◆◆◆
それはいつものごとく、世話の焼けるどこか抜けた幼馴染が持ち出してきたトラブルから始まった。
『君がどうしようと俺には関係ない。』
『…そ、そんなことないもん!』
『ほぅ。何を根拠に?』
『わ、私が何かしてトラブルを持ち込んだとしたら、それを解決するのは八雲君なんだよ!』
『…君が何かしたらトラブルを持ち込むのは前提なのか。』
『…それは…。できれば持ち込まないようにしたいけど…不可抗力というか…。』
『…。』
『と、とにかく!一緒にきてよ、八雲君』
『断る』
そんな会話をしたのは昨日の放課後だった。
なんだかんだ言いつつも、たった一人の幼馴染にだけはとびきりに甘い八雲は
結局、その次の日には、重い腰をあげて1人で問題の部室に来ていた。
晴香と一緒ではないのは、偶々その日晴香は委員会活動があったからだ。
八雲としては一緒にこられてこれ以上のトラブルを持ち込まれるのはごめんだったので
それは好都合だった。
が。
せっかく単身で乗り込んだにも関わらず、
あと一歩というところで教師の邪魔が入り幽霊には逃げられ、
説得は中途半端のまま、噂自体の解決には至らなった。
もっとも、八雲にしてみればそんな噂などどうでもよい。
八雲としては、晴香が頼んでいたものを
手に入れられただけで十分だった。
綾香とおそろいのハンカチ。
後生大事にお守りとして持っているわりに、
晴香はそれを結構頻繁に失くす。
それが晴香らしいと言われればそうなのだが、
毎回一緒に探すハメになるのは勘弁だった。
今回それを失くし一番問題だったのは、
なくした心あたりのある場所が、噂になって久しいあの問題の部室近くだったことだろう。
噂を怖がった晴香は八雲を頼ってきたのだ。
八雲の影響あってか、晴香は心霊現象を信じている。
八雲は逆にそれがほとんどはデマだと知っているのだが、晴香は疑わずにいるので
かえってそれが霊を呼び込むことになるのだ。
そして今回の噂は本当だったようで、八雲は図らずも幽霊と対面してしまい、
なんだかんだと説得するハメになったのだ。
八雲としては、晴香のハンカチを見つけた時点で帰りたかった。
おそらくそうすれば、教師に見つかることもなく、
晴香にあんな馬鹿らしい説教を喰らうこともなかった。
しかし、幼馴染のお節介が移ったのか、ついつい口が滑ってしまったのだ。
そしてやっと霊も大人しくなってあと少し、というところで
八雲の努力は無駄になったのだ。
結局幽霊は教師の出現により消えてしまった。
おそらく、まだあの部室には幽霊がさまよい、噂が絶えることはないだろう。
八雲としては何の問題もない。
晴香の落し物は本人に返したし、幽霊の説得が上手くいかなくても
別に八雲に害があるわけでもないし、関わらなければ共存できる存在だ。
噂が残ろうが、何のこっちゃない。
八雲にとって、その程度のことだった。
そう、そのはずだったのだ。
たった一人の幼馴染が、関わらなければ。
◆◆◆
晴香がその部室に行ったと知ったのは、
もう日が沈み始めたころだった。
八雲は事実を教えてくれた晴香の友達らしい女子を睨み、その子を震え上がらせたが、
もう眼中にはなかった。
クラスメートの男子達が噂の幽霊の存在を確かめようとするのを
止めようとして、丸めこまれ、一緒に行くことになってしまったらしい。
怖いくせに。
おそらく彼女に好意をもっている男子どもの仕業だろう、と見当をつける。
怖がる彼女にカッコいいところを見せるつもりなのだろう。
そんなことをしたところであの鈍い彼女に伝わるとも思わないが。
しかしながら、霊は本物だ。
そんな男達の思惑はかなうはずがない。
「あの、馬鹿・・・!」
どうせお人よしにも手助けになればと、のこのこついて行ったのだろう。
いったいどれだけこちらの負担を増やせば気が済むのか。
今はいない幼馴染を心の中で罵倒しつつも、
八雲は体育の授業では絶対見せないだろう全力のスピードで走りだした。
◆◆◆
倒れた晴香を見た時に、八雲のタガは外れたのだろう。
その顔は感情を失くしたように何も映してはいなかった。
幽霊の説得は、簡単にも終わった。
もともと一度説得に成功しかけていたのだ。
それをもう一度行うのは八雲にとっては造作もないことだった。
しかし、八雲は幽霊などはもとから問題ではないのだ。
八雲にとっては何より晴香だ。
ここに全速力で駆けてきたのは、幽霊を救済するわけでも、愚かな男子を助けるわけでも、
噂を失すためでも、ない。
晴香を守るためだ。
それ以外のことは、八雲には意味を持たなかった。
◆◆◆
そっと晴香に近づくと、吐息が聞こえた。
どうやらただ気を失っているだけのようだ。
何があったかは、起きてから問い詰めようと決めて、
とりあえずここから離れることにする。
「・・・いいか?もし次にこいつに余計なことをしたら黙ってないからな」
先ほどの幽霊に何かされたのか、八雲が睨んでいるからか、
あるいはどちらもか、恐怖で声が出ない男子どもは、頭を必死に縦に振る。
そんな男子達を一瞥した後、次の瞬間にはもう眼中に無さ気に
八雲は倒れている晴香をなんとか背負うとのたのたと歩き出す。
八雲の後ろ姿が見えなくなっても震えは止まらず、
その場に座り込んだままでいた男子達は
もう絶対に小沢晴香には近づかないことを心に誓った。
そうして。
小沢晴香に手を出したら斉藤八雲に呪われる。
本人達は預かり知らないことだが、そんな噂が学校中に広まることとなる。
◆◆◆
「あれ、八雲君・・・?」
「・・・起きたか」
「え、なんでここに・・・」
「そんなことはいいから早くおりろ。重い」
「え?・・・って、ええええ?!」
「・・・うるさい。少しは静かにしろ」
「だ、だって・・・!」
「・・・」
八雲の背から降りた晴香は赤い顔を青くさせる。
ああ、体重がばれる・・・。
ぶつぶつ独り言をいう晴香を気にした風もなく、
八雲は厳しい口調で責め立てる。
「おい、なんであんな奴らにほいほいついて行ったんだ。・・・君はあそこが本物だって知ってたろ」
「そ、それは・・・」
「・・・」
「・・・」
言い訳を考えている様子の晴香に八雲は溜息をついた。
「・・・もういい、なんとなくわかる」
「・・・八雲君」
「・・・なんだ」
恐る恐るこちらを伺う晴香に八雲は不機嫌な顔を隠しもせずに向ける。
「うん。あのね、・・・助けてくれて、ありがとう」
ハンカチも、本当は八雲君があの部室で探してきてくれたんだよね。
教室に落ちてたなどと適当なことを言って返したハンカチは、
しかし晴香には本当のことが伝わっていたらしい。
だったらあのくだらない説教をもう少し短くできなかったのか、
と思い、嘘がばれていた気恥ずかしさも手伝って、むっとする。
しかし、嬉しそうに、幸せそうに笑うその晴香の姿は、
出会った時と変わらずに、無邪気で。
その笑顔ひとつで、許せてしまう自分がいる。
かなわない。
囚われている。
出会った時からずっと。
「・・・幼馴染、だからな。・・・君のトラブルには慣れている」
「もう!」
また始まるくだらない言いあいに幸せを感じてるなんて、
絶対に彼女にばらすつもりはないけれど。
かんけい
この居心地のいい幼馴染だけは、
まだ手離したくなかった。
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幼馴染設定の晴香はお姉ちゃんのことは
確かにトラウマではあるんですが、
原作よりもすぐに八雲に救われる立場にいるので
長い間引きずってない分傷が原作ほど深くはないし、
八雲によって守られているので
性格は原作よりも無邪気で天然で無防備な子です。
そして八雲は原作より晴香に甘い。
馬鹿な子ほどかわいいみたいな感じで見守ってます。
晴香の自覚は早いですが、八雲はきっと遅いです。
…俺得設定すみません…。
晴香に何があったのか、どう幽霊を説得したかは、
妄想で補うということでひとつ!←
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