※八晴
それは、衝動だったのだと思う。
きっとその場面に戻れたとしても、私は同じことをしてしまう自信がある。
そのくらい、抑えられない気持ちだったのだ。
いつの間にか、口からこぼれていた。
言うつもりはなかったのに。
でも、ずっと思っていたことだったから抑えるのも限界だったのだろうか。
「八雲君。・・・好きだよ」
八雲も驚いたというか、唖然として呆けた顔をしたが、
私だって自分の口から言葉だというのに信じられない気持ちになった。
とうとう、言ってしまった。
もう後戻りはできない。
忘れて、とは死んでも言いたくなかったから。
この気持ちを、嘘にしないでほしいから。
「すまない・・・僕は」
「嫌!言わないで!」
きっと八雲は否、と答えるだろう。
私の想いに応えらないと告げるだろう。
それか、私の気持ちを嘘だと、勘違いだと、忘れろと言うだろう。
そうなってしまったら、
私はもう八雲にどんな顔をして会えばいいかわからない。
―――溢れてしまったこの気持ちを止めることなどできないのに。
そうなってしまったら、
お互いに戸惑って距離が開くだろう。
―――今まで通りに普通に接する自信など皆無だ。
そうなってしまったら、
もう、八雲の傍にいれなくなるかもしれない。
―――嫌だ、離れたくない。
会えないのは、避けられるのは、傍にいられないのは、辛い。
私はただ、八雲に関わって生きていたいだけなのに。
無理なことは、言わない。
望みの薄い私の本当の願いだなんて我慢しようと決めたから。
ただ、八雲の傍に。
隣でなくても、構わないから。
だから。
「特別じゃなくていい。・・・友達でいいから・・・。もう、好きだなんて言わないから」
今にもこぼれそうな、瞳いっぱいの涙がこぼれないように踏ん張る。
そしてなんとか笑おうと必死に表情をつくるけど、
八雲の顔が見てていてこちらが辛くなるほど痛々しいから
きっと私は上手く笑えていないのだろう。
嗚呼せめて、みられる顔であるといい。
恋する乙女としては(こんなこと八雲は否定しそうだけど)
好きな人に涙でぐちゃぐちゃの顔なんて見られたくない。
「だから、お願いだから、・・・傍に居させて」
「・・・」
「・・・もう、トラブル持ち込んだり、泣いたり、しないから・・・」
「・・・僕は、」
「お願い・・・言わないで・・・」
ただ、近くに、居てくれるだけでよかったのに。
私が我慢できなかったばかりに。
私は、また、失うのか。
大切なものを。
大切な人との、居場所を。
八雲が溜息をつく。
身体が過敏に反応してビクついてしまった。
「・・・君は人の話を聞けと、しつけれなかったのか」
「・・・」
「・・・そんなんだから君はいつも失敗するんだ」
「・・・」
怖い。怖い。怖い。
八雲は何を言うんだろう。
「・・・嫌・・・」
とうとう俯いて八雲の視線から逃れ、怯えたように身を小さくする。
耳をふさごうとした手は八雲に掴まれてしまった。
そして、耳元でささやかれた言葉は。
『すまない。僕は、君を幸せにしてあげられないかもしれない。でも、それでも、僕も君が好きだ』
「・・・え?」
信じられなくて瞬いた目いっぱいに八雲の顔が映し出される。
今までにないくらい近くて、心臓が破裂しそうだ。
「・・・僕も、君が好きだよ」
「・・・嘘・・・」
「失礼だな君は。人の気持ちを嘘呼ばわりか」
「・・・だって・・・」
「だっても、嫌だも聞かない」
「・・・八雲、君・・・」
「・・・で?君は仮にも想いを寄せる人に対して、もう好きと言わないし、特別じゃなくて友達でいいし、泣き顔も見せないし、ただ傍にいるだけでいいんだな?」
「それはっ・・・!・・・その、違っ・・・」
「・・・だいたい、トラブルを自分で解決できると思ってるのか?僕以外の誰に頼るつもりなんだ、君は?」
「・・・八雲君以外に、頼むわけないじゃない・・・」
「声が小さくて聞こえない」
「もうっ!意地悪ばっかり・・・。なんで、こんな時ぐらい優しくしてくれないの?」
「・・・君だって意地が悪い。告白したと思ったら、なんで泣くんだ。いい加減にしてくれ」
「・・・だって、八雲君が・・・」
「人のせいにするな」
「・・・何よ・・・。今まで私がどんな想いでっ・・・!」
気が抜けたのか、今まで耐えていた涙腺が壊れたかのように崩れる。
涙が止まらなくて、ただ涙をぬぐってくれる八雲の指の温かさだけを感じていた。
「・・・君は本当に泣き虫だな」
「・・・うるさいな・・・っ」
八雲の指先が離れると、
今度は慰めるように、言葉とは裏腹に優しく、
八雲の額が私のそれにこつんとぶつかった。
そしてすり寄るような仕草をして、私に問いかける。
「・・・で、結局どうなんだ?・・・君は、本当に今まで通りにただ僕の傍にいるだけでいいのか?」
「・・・そんなの、嫌・・・。・・・八雲君が好き。・・・八雲君の隣に・・・一番近くに、いたいよ・・・」
「そうか。・・・今ちょうど特等席が空いてるぞ」
「・・・どこ?」
「僕の彼女」
「・・・じゃあ、しょうがないからそこに座ってあげる」
まだ涙が止まっていない顔で、そんな強気に言ってみる。
悔しいから、本当はさらに涙が溢れそうなほど嬉しいだなんて、八雲には言ってあげない。
―――ばれてるかもしれないが。
「・・・素直じゃないな、君も」
「お互い様でしょ」
笑い合って、抱きしめ合って、キスして。
特等席は、なんて居心地がいいんだろう。
始めた知ったその温かな場所から、もう逃られないことを私は思い知る。
逃げるつもりも、誰にも譲るつもりもないから
全然構わないのだけど。
もちろん、私の特等席は八雲君のものだから、誰にもあげないよ。
ごめんね。
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奥/華子さんの「初・恋」がイメージです。(後半まったく違うけど)
歌詞所々被ってます。
奥/華子さんは良いよね!
切ない曲ばかりですが、歌詞もピアノのメロディーも大好きです!
オススメv
この話、本当は5月半ばにはもう出来てたのに
うまく保存できてなくてデータ消えて半泣きだったとか
そんなわけないんだからねっ!
・・・消える前の話のが良かったなんてそんなこと・・・(泣)
おかげでタイトルまで変えました。ホント、なにやってんの自分・・・。
明らかに前半と後半の違いが丸わかりなのはそのせいです。
シリアスどこ行った。
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