※風千
※詩的風間語り
※急に始まって急に終わる
「貴方はとても淋しい人です。愛の存在も絆も信じられない…。だから一人で戦っている…。でもそのことにも気づかないほど貴方は孤独なんですね…。」
「…。」
この者は。何故己以外の者の為に、俺の為に、泣いているのかと心底不思議だった。
泣き虫で怖がりだと思っていたけれど、泣きながらもけして瞳は逸らさない。
不覚にも、その顔が、そんな表情が、綺麗だと思った。
おそらく雰囲気に呑まれたのだろう。
何だか落ち着かない気持ちになって少し苛立った。
こんな風に感情的になるなど久方ぶりだ。
…『愛しい』という気持ちはきっとこういうモノなのだと思った。
あの女がいなければ何だか落ち着かなくて。
半身が抜け落ちような、心が枯渇している気持ちになって。
無意識にその気配を探していた。
見つけた時の切なさと安心感はいったい何処からくるのかは定かではなかったが、
今は考えるべきではないと思考を放棄した。
目の前で彼女が倒れた日。
あの温かい小さな儚い生き物は呆気なくこの手をすり抜けて行くのだと、初めて自覚した。
触れなかったのではない。触れられなかったのだ。
余りに血や野心に塗れ汚れたこの手で、あの綺麗で温かな存在に触れることは叶うのかと。
待ち焦がれて手を伸ばす。
心地好いぬくもりを胸に感じて、やっと手に入れたのだと安堵した。
おまけ。
別version。
「貴方はとても臆病なんですね。だからいつだって怖くて必死で笑ってる…。でも本当の気持ちを隠すから辛くて淋しいんだ…。逃げてることに気づいていても立ち向かうほど強くない…。目を背け続けて貴方はいったい何処まで逃げると言うんですか…。」
…見透かされている。
この女の目はいったい何が写っているのだろうと思って恐ろしくなった。
思わず逃げ出しそうになる足を叱咤して一歩前に踏み出た。
「…お前に何がわかる…。」
「…貴方は、救われたいと願っていても、祈りはしない…。自分の力しか信じられないから?」
「…祈ることに何の意味がある?」
「…貴方は、弱いのですね…。信じて裏切られれば心が折れそうだから信じられない…。」
「黙れ!」
このまま聞いていれば駄目だと思った。
取り返しのつかないことになる。
もう二度と、自分一人では立ち上がることができなくなる。
誰かに支えてもらわねば立てぬなど、鬼のが頭領が笑わせる。
しかし、きっともう遅かったのだ。その目に写された時から、もう囚われた。
—もう、戻れない。
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