2011年5月6日金曜日

捏造パロ   左之編


この設定を読んでからどうぞ

※千鶴総受け設定だけど登場するのは左之+龍之介+千鶴のみです




妖怪の宴は人間のそれよりもにぎやかだ。
もっとも、こいつらが異常なのかもしれないが。

月見だ花見だなんだと何かと理由をつけては
酒を飲み始める彼を呆れたような目で見て龍之介は
少し酔いを覚まそうと外に出た。

いつの間に外に出たのだろう。
そこには先客がいた。

「お。どーした?妖怪の酒はお前にゃきつかったか?」

「別に」

原田左之助。
不思議な妖怪だと、龍之介は初めて会ったときから思っていた。

みんなどこかしら人間である自分を突き放したように見ている中で、
雪村千鶴とこいつだけは龍之介をそんな目では見なかった。

大人なだけかと思えば、短気な一面もあり、そういうわけではなさそうだと思いなおした。
(大人な面だけで言えば、土方だってそうだが、
あの妖怪は一番龍之介を異分子と見なしている。)

酒の入った今なら答えてくれるだろうか、と龍之介は尋ねてみることにする。
もともと質問をすれば9割がた真面目に答えてくれるこの男は、
しかし前一度そのことを問いたときにははぐらかしたのだ。

特段知りたいわけではない。
ただ、この妙に人間慣れしている妖怪が
時々龍之介に向ける視線が気になるのだ。
龍之介を通して何か違うものを見ている、その視線が。

今回は、少し眉を寄せると無言で酒を煽っただけ。

やっぱり駄目かと龍之介は諦めて空を眺める。
残念ながら曇っていて星も月も見えそうにない。
大人しく屋敷に入って寝るか、と思い始めた時、
原田は口を開いた。

「俺は昔、人間の女に惚れたことがある」

意外過ぎて言葉が出ない。
確かに色っぽいたらし男だと雪村への態度でわかっていたが
妖怪と人間の恋沙汰とはどういうことだ。

龍之介の無言を気にした風もなく、原田は話を続けた。


「美人のそれはそれは良い女でよ。最初はただの興味で手を出してみたんだが、ヤラレちまってよ。もう我を忘れる勢いで迫ったわけだ」

それもどうかと思うが、とりあえず突っ込まないで話を促す。

「むこうもだんだん心を開いてきて、俺ももう取り返し付かないとこまできてて、とうとう妖怪だってことを打ち明けちまったら、知ってたときたもんだ。まあ通りで口説くのに時間がかかったと思ったんだが、そこは置いといてだな。俺もびっくりしたが、女はそれを受け入れて俺と契ったわけだからな、ますますその女に入れ込んだ」

冗談っぽい口調で語っているのに生々しいと思ってしまうのは
この男が語るからなのだろうか。

「家族を持ちてぇとも思ったが、人間と妖怪の間に生まれた奴の苦労も知ってるしな・・・。戸惑いも感じてた」

「・・・」

「まぁでも、惚れた女と自分のガキだ。守り通す覚悟も自信もあったつもりだ。・・・けどよ、やっぱりさ、“違う”って思っちまったんだよな」

何か言わねば、と柄にもなく気遣おうとして失敗した。
結局何も言葉は出なくて沈黙。

「馬鹿だよな、俺。そんなこと最初っからわかってたはずなのにな。・・・女のほうも、俺がそう思ったことに気づいたんだろうな。・・・女は聡いからな。怖ぇぞ」

笑いながら言ってるはずなのに、全然目は笑ってない。
どこか寂しげで、どこか悲しげだった。

「・・・俺が不安に思ってることも、迷ってることも見抜いてた。・・・だけど、俺を責めもせず泣きもせずただ黙って俺を待ってた。俺の出す、答えを待ってた」

風が吹く。曇っていた空はいつの間にか晴れて、月が出ていた。
不覚にも、月光が照らすその精悍な横顔が、
妖怪でも、男でも、綺麗だと思ってしまった。

「きっと俺の出す答えの内容もわかってただろうに、ずっと待ってたよ。・・・でも、そうこうしてる間に月日は過ぎる。人間ってのはどうも死に早い生き物だ。俺が答えを出せない間に女の周りが騒ぎ始めた。・・・情を交わしてるのが妖怪だってばれた日にはもう騒ぎどころじゃねえな、ありゃ。みんな武装して妖怪退治にいそしむってわけだ」

「・・・その女は止めなかったのか」

「それは知らねぇが、止めても止めなくてもどっちでも同じだ。人間の集団なんてよ、勢いついちまえば誰にも止らんねぇ」

「・・・」

この妖怪は、妖怪らしくなく人間を知っている。
きっと、全部知ってその様子を、見ていたんだろう。
人間の、その激情を。

「・・・俺も若かったし、性格も短気だしな。さらっとその女の前から消えりゃ何事もなかったかもしんねーけどよ、ついつい人間どもの相手をしちまったわけだ。これが。んでできた傷がコレよ」

腹の傷を指さす原田。
この雰囲気には合わないそれは。

「・・・顔、消えてねーぞ」

酒の席で書かれた落書きは消えずにそのまま。
この場面にはどうにも相応しくない滑稽さ。
しかしそんな突っ込みを無視し、原田は話をまとめた。

「・・・ま、結局人間の女も俺の荒れ狂って人間を倒してく姿を見てとうとう愛想尽かしたわけだ。それ以来、二人はもう二度と会うことなく、俺は人間に関わることもなく、可愛い姫巫女と仲良く暮らしてますとさ。めでたしめでたし」

どうしてこの妖怪が、俺に話をしたのか理由がわかった。

「・・・あいつらは知ってんのか」

「いや?まだそんときゃ新八と土方さんぐらいしか生まれてねぇんじゃね?ま、俺が人間にやられた傷を持ってるって噂は有名だけどな」

「・・・嘘だな」

「あ?」

「・・・お前がそんな顔して言うにしては軽すぎる。お前、まだなんか隠してるだろ」

「・・・別に隠してねぇよ。これで俺の話は終わりだ」

「・・・。・・・ま、話したくねぇなら無理に話す必要はねぇけどな。別に、そこまで知りたいわけじゃねーし」

「おいおい。ここまで話してやってそれはねーだろ」

「そういうことは全部本当のこと言ってから言うんだな。・・・じゃ、俺は戻るぜ」

「本当だっての。・・・おう、またな」

俺が視線を気にしてただ理由を聞いただけだ。

あの男には俺に本当のことを話す義理はない。
それは認めよう。
人間と妖怪という壁を除き、出会って短い付き合い、それほど親しくもない仲から考えても、
それは当然だということにしよう。

誰にでも話す嘘だからこそ、あの男は口を開いたのだ。

妖怪と人間。
その違いが埋められない差なのかどうか、龍之助は考えたこともない。
しかし、なんとなくやりきれない感じを覚えた。


               つくりばなし
あの話は原田の作った御伽草子だ。
いったいどこまでが本当なのかはわからないが。

「・・・どうぜ言うなら本当のことを言いあがれってんだ」



◆◆◆



見えなくなる背を見送って溜息を吐いた。

『・・・嘘ですよね?』

過去に一度、左之の嘘を見抜いた者がもう一人いた。
この話をして本当に騙される奴は多いが、騙されてくれる奴も少なからずいる中で、
その少女は真っ直ぐに瞳を逸らさず聞いてきたのだ。
そう。まるで、左之の返事を待っていた、あの女のように。

「・・・さて、千鶴。いつまでそこにいるつもりだ?」

「・・・ばれてましたか」

「ばれてないと思ってたのか?相変わらず可愛い奴だな、お前は」

「もう左之助さんはいつもそればっかり・・・」

「なんだ?ホントのことだろが」

「・・・もういいです。・・・龍之介さんには、教えなかったんですね」

「・・・」

女は怖いと、左之は常々思っている。
こっちがいくら虚勢をはっても簡単に崩されてしまうし、
嘘はだいたい見破られる。
もっとも、そういう聡い女しか左之が相手にしないというのもあるが。

簡単に騙されるやつは可愛いが、それだけでは物足りない。
やはり、自分には妖怪の血が流れているのだと、こういう時に自覚する。
ただの女ではつまらない。

「・・・お前はまたそんな薄着で。・・・こっちこい、ほら」

「大丈夫です」

「いいから、こい。また倒れて土方さんに怒られても知らねぇぞ?」

「ぅ・・・」

「おまけに斎藤からは無言の重圧をうけるな。あれは重いぞ」

「うぅ・・・」

「総司はからかうわ、平助は泣きそうな顔するな。んで山崎の仕事を増やすことにもなる」

「はぅ・・・」

「しまいには心配したお千がはるばるやってきて、俺らが説教喰らうはめになるんだぞ?」

「・・・」

「俺は守護者なんだから、お前を守るのは当然だ。それはなにも敵からだけじゃない。お前を寒さからも、病からも、守る必要があるんだからな」

「・・・はい」

「わかったら大人しくしてろよ?」

「はい。ありがとうございます」

「いや、大したことじゃねぇよ。お前を守るのが当然なように、お前の心配をするのも当然だからな」

「・・・温かいですね」

「だろ?」

「・・・はい。」

あの女を“違う”と感じたのは、きっとこの少女が
自分にとっての“女”であるからなのだろうと、
この少女に嘘を見破られたときに感じたものだ。

きっと、人間と妖怪の違いなど大した差ではなかったのだ。
この少女が相手だったならば、きっと自分はあの時どんなことがあっても
あの手を離さなかったに違いない。
そう、腹に穴があいても、切り倒されても、毒の刃をうけようと、
自分の最愛の相手を守ったことだろう。

あの時守りきれずに、逆に守られ、情けなさと女の幸せを願い、
手を離してしまったのは、きっと自分の覚悟が足りていなったのではない。
自分の力が足りていなかったのは事実かもしれないが、
それでもあの手を離す理由にはならない。


そう、きっと相手が千鶴ではなかったから。
答えはそれで十分だ。


だって、自分の想いはこんなにも1人の少女へ注がれている。
それこそ、あの時以上の愛が。

あの時の想いが嘘だったとは思わない。
いまでも色あせないあの時の苦い思いは、多分本当だったのだ。
でも、唯一の愛ではなかったのだと、今ならわかる。

永遠の愛など信じてるわけではないが、自分のこの想いを例えるならきっとそれに近い。

腕の中の存在を宝物のように抱きしめて、原田は今の幸せを噛み締めた。



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左之の本当の過去・・・。
これで伝わりましたでしょうか・・・?
わかってくれると嬉しいのですが、わからなかった方は
嘘だけを知っててもそれほど違いはないのであしからず。

次は風間さんか土方さんです。

いつになることやらですが・・・(汗)

とりあえず、みんなの千鶴ちゃん大好き!!を出していきたいと思います♪

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