2011年5月10日火曜日

緋色  心の距離



※祐珠前提拓+珠(祐一先輩ほぼ出てきません)
※祐一先輩は大学生
※つまりは遠恋時期




夕方。
珠紀が誰もいない教室でぼんやりしていると、
いきなり声をかけられた。
よく知っているこの声は拓磨だ。

「どーした。ばか。」

「・・・え?」
「もう夕方だ。帰るぞ」
「ぁ・・・ごめん、うん、帰る・・・」
「・・・お前、なんかあったのか?最近、変だよな」
「え?そ、そんなことないよ?私、何時もどうり超元気!」
「・・・前より増してから元気だな」
「だから、そんなことないって!」
「・・・ま、お前がそう言うならいいけどさ」
「何よ。信じてないわね」
「・・・祐一先輩には、言った方がいいんじゃねーの。彼氏だろ」
「・・・何を?」

笑おうとして失敗した。
なんとかごまかそうと俯く。

祐一先輩に言えるものならば言っている。
言えないからこんなに苦しいのに。

「・・・お前が何考えてるのかさっぱりわかんねーけどさ、祐一先輩の気持ちなら俺もわかるし、あんま心配かけんなよ」
「・・・うん」
「・・・」

あーこいつ何にもわかってねぇー。
拓磨は溜息を吐くと、乱暴に珠紀の髪を撫でた。

「ちょっ!何・・・!」
「・・・祐一先輩はさ、大人だししっかりしてる。頼りになるし良い彼氏だと思うぜ」
「・・・うん」
「・・・だから、お前はもっと甘えろよ」
「・・・」
「祐一先輩はお前が寄りかかったくらいで潰れるような人じゃねーし、文句もいわねーよ。むしろ、男として嬉しいと思うぜ」
「・・・」

拓磨にされるがままになっている珠紀は
何も言えずに俯いたまま拓磨の言葉を聞いていた。

「お前が選んだのも納得っていうか、ぶっちゃけ、俺がお前でも祐一先輩を選ぶな」
「・・・」
「・・・お前は最善の選択をした。もっと自分に自信を持てよ。・・・自分が選んだ男を信じろよ」

信じていない、わけではない。
ただ、自分はどのくらいの距離でいればいいのかわからないのだ。

今、彼はここから遠い場所にいる。
片道4時間。
移動はバスのみという環境で彼は週末、時々帰ってきてくれるし
長期休みは必ず帰省してできる限り一緒にいてくれる。

愛されているとは自覚している。
向けられるまなざしは優しいし、抱きしめてくれる腕も、
恥ずかしいほどのキスも、赤面してしまう真っ直ぐな言葉も・・・。
彼の愛情を疑う要素はどこにもない。

でも。
思い知ってしまったのだ。

数日に一回電話をしてくれる彼。
電話料金はほぼ祐一先輩持ちになってしまっているのが
心苦しくて、今日は自分から連絡してみよう!
と意気込んで少し勇気を出して電話をかけてみれば
とぎれとぎれに聞こえる賑やかな声。
女の人の声も、男の人の声もどっちも聞こえる。
浮気などではないことはわかった。
でも、すごく遠く感じてしまったのだ。

ああ。彼はここにはいないのだ、と。

自分の知らない所で過ごしている彼。
自分の隣ではない、自分のいない場所で生活している彼。
自分は彼の住むその世界を何も知らない。

不安になった。怖くなった。苦しくなった。

急に元気のなくなった珠紀の様子を不思議に思ったのか、
祐一先輩が何か言っていたが、そんなことには気が回らずに
珠紀はなんとかその場を誤魔化して電話を切った。

それから数日がたったが、電話も何もないし、
珠紀からも連絡ができないでいた。

周りのみんなに心配をかけているのは薄々気がついていたが、
自分ではなんとか明るく振る舞っていたつもりだった。

「・・・拓磨・・・ありがとう」

なんとか笑顔に見えるだろう顔でお礼を言えば
拓磨は苦々しい顔をして顔を背けた。

「・・・別に」
「あ、照れてる~?」
「・・・茶化すな。・・・祐一先輩にも、頼まれてたからな」
「・・・え?」
「・・・お前の様子が変だったから何かあったのなら助けてやってくれって。俺は傍にいてやれないからってな」
「・・・え・・・」
「・・・距離を感じてるのはお前だけじゃねーってことだよ」
「・・・」
「・・・だからさ、せめて思ってることぐらいは言ってやれよ。・・・俺に言えないことでも、祐一先輩になら言えるだろ。・・・不安なのはお互い様だ。・・・素直に言えば、心の距離ぐらいは埋められるんじゃねーの」
「・・・拓磨、・・・そのセリフ恥ずかしいよ」
「うるせっ!だいたいお前が・・・!」

泣き笑いのような珠紀の表情に、拓磨は文句を飲み込んだ。
そして窓の外の存在に気づくと苦笑して
これが最後と言わんばかりに先ほどよりも少し強い力で乱暴に珠紀の髪をかき乱した。

「わっ!ちょっと何すんの!」
「んじゃ、俺は帰るからな。・・・頑張れよ」


まだ文句が言い足りないと言わんばかりの珠紀をおいて教室を出る。
きっと、明日には元気いっぱいで心から笑顔の珠紀に
会えるだろうことを予想して、拓磨は口元に笑みを浮かべた。



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祐一ルートの珠紀と拓磨。
拓磨はどのルートでも珠紀の良き相談者であるといい。

あの二人って存在似てません?
なんか拓磨ルートじゃなくても、
この二人は一緒にいることが当たり前的な幼馴染のような雰囲気がある気がする・・・。
遠慮がないって言うか、一番わかりあえて、息がしやすい、みたいなさ。
(まあ、悪く言えば精神年齢が同じ・笑)

祐一はそんな二人に妬いてればいいよv


拓磨ルートでは真弘先輩が珠紀の相談者っぽいけどね~。
祐一先輩は拓磨のフォローっぽいな~。

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