2011年5月2日月曜日

千鶴総受け 捏造パロ  沖田編


この設定を受け入れられる方のみ、どうぞ。





幼いころの、夢を見た。

それは、自分の生まれ持った才能に愚かにも酔いしれていたころの、
夢で見るには切なすぎる思い出だ。

「近藤さん・・・」



土方さんに、初めてやっと勝ったころ。
僕の世界の中心はたった一人の大切な人で構成されていた。
もちろん、人といっても妖怪だ。

その妖怪の名前は近藤勇さん。
僕が敬愛し、この人の為に死にたいと思うような、立派な妖怪だった。

近藤さんは、土方さんにとって兄みたいな存在で、
それは僕にとっても同じだった。

妖怪としての力は強いけど、優しくて、大らかで、柔和な笑顔。
人望も厚く、先代の守護者の中でも一番の有力者だった。
憧れだった。大好きだった。
とにかく僕の絶対的な存在だったんだ。

僕に剣を教えてくれたのも近藤さんだった。

「総司。むやみやたらに力をふるい、傷つけてはいかん。お前が強いのはトシも認めただろう」

「でも、つまんないんだもん。みんな弱いんだ。誰か僕を楽しませてくれないかな」

「総司・・・」

困ったように笑うその顔に僕は甘えていた。

「いいか、総司。刀はな、大切なものを守る時に一番強い力を発揮するんだ。だからな、力ってのは大切なものを守る為にあるんじゃないかと俺は思う。だから、今の総司みたいに、何もない時に力をふるっていたんじゃ、もったいない。それに、そのせいで大切なものを守れなくなったんじゃ、本末転倒だ」

「・・・ふぅん。・・・じゃあ、近藤さんにとって大切なものってなに?」

「そうだなぁ。姫巫女殿もそうだし、一族も、トシも、・・・それに、総司、お前もかな」

「・・・そっか」

「なんだ?照れてるのか?」

「別に・・・」

素直じゃない僕にそれでも近藤さんは笑って頭を撫でてくれた。
土方さんはそんな近藤さんに甘やかすな、なんて余計なことを言っていたけど。


その頃の僕は、きっと生涯でもっとも駄目な時期だったと
自分でも今は反省している。(後悔しても今更だけど)
できることならあの時の僕を殴ってやりたいとさえ思う。

土方さんに一度勝ったからといって
自分の力を無駄にふるっていた、どうしようもないころの僕。
調子に乗っていた僕は、やたらにそこらの妖怪に絡んでは切り伏せていた。
しかしある日思わぬ返り討ちにあった。
そこで起きた僕の力の暴走。
そしてそんな僕を守り庇った時に受けた傷がもとになって近藤さんは倒れた。
治りかけで無理をし、傷が痛みできた隙を敵につけ入れられたのだ。
姫巫女を守って死ぬことができるなら本望だと、あの人は笑って逝った。

言葉に表すならそれですべてだ。
でも、僕にとってはそれだけでは表せないものを残していった。

誰も僕を責めなかった。
土方さんすら何も言わなかった。

近藤さんが僕を責めなかったからのか、
それとも姫巫女を守ったことにかわりなかったからなのか。

でも、あの時の土方さんの背中を今でも忘れられない。
あそこまで無防備で情けない姿は、多分もう一生見られないのではないかと思う。
数年間、導を失くし打ちひしがれた彼は、でも雪村千鶴という少女によって救われる。
先代の姫巫女の残した幼子。
近藤さんが命を張って守った先代姫巫女の娘。

そして土方さんがその次期姫巫女の守護者として覚醒した頃も、
僕はまだ近藤さんが亡くなったことを受け入れられずにただ息をしていた。
ただ、何もすることもなく、どうして自分が生き、近藤さんが死んだのかと、
ただそればかりを思っていた。

そんな時。
1人の少女が現れたのだ。
少女というよりも、子供といっても差し支えないその女の子は、
僕に大切なものを思い出させてくれた。

それから、僕の世界は再び動き出した。
世界の中心が、彼女に変わって。

僕にとって、大切なものはもう彼女しかいない。
彼女を守る為に僕は生きる。

近藤さん、それでいいよね?

夢の中で見た近藤さんも笑っていた。
あの人はいつだって笑っていたけれど、
それでいいのだと、背中を押してくれているように感じた。

はっとして目をあける。

随分と、過去に捕らわれていたようだ。
こんな感傷的な自分はきっと守護者面子に見られたらあから様に敬遠されるだろう。

だけど。
こんな時は、堪らなく会いたくなる。

「千鶴ちゃん・・・」

気配を探っても、屋敷の中には感知できない。

どこに行ったのだろうと立ちあがる。




◆◆◆



龍之介さんがいない。
心配になってつい探しに出てきてしまった。

私にとっては優しい妖怪が多いけど、
人間である龍之介さんにとっては無害だとは言いにくい。
それに龍之介さんはまだここに来たばかりで、
道に迷ってしまうかもしれない。
ますます心配だ。

土方さんたちは私にはよくしてくれるけど、
基本的にみんな面倒くさがり屋さんなのか、
龍之介さんのことはお構いなしで放置気味。
私が探しに行きたいといっても放っておけと言われるだろうから
みなさんには内緒で来てしまった。

早く戻らなきゃ不味いだろう。
みんなに心配をかけるのは本意ではない。
気配を探ってみると、運のよいことにすぐ見つかった。

「龍之介さん!」

「雪村・・・なんでここに」

しかし、見つけた場所は良い場所ではなかったようだ。

「美味そうな人間を連れておるのぅ。我の元に置いていけ」

「うわあっ!」

やけに辺りが静かだなと思ったら、妖怪の魔の手が迫る。
龍之介はまったく動けずにその場に座り込んだ。

「略法!急々如律令!」

千鶴がそう唱えると出した護符からは光が溢れ、二人のいったいを囲む。
妖怪はその光から逃れるように一旦距離をとった。

「ちっ・・・。流石は姫巫女か・・・妖怪のくせに呪術など遣いおって・・・」

「龍之介さん!大丈夫ですか?!私のことはいいので早く逃げてください!」

「馬鹿!置いていけるかよ!」

「私はこれでも姫巫女です!そこらの妖怪に手を出されるような半端な地位ではありません!」

「でもよ・・・!」

「私なら平気です。護身術程度は習ってますから。でも、貴方を守りながらではちょっと厳しいので、みなさんを呼んできてください」

「・・・雪村・・・」

千鶴は龍之介を安心させるようになんとか頬笑みを浮かべると新たな護符を取り出す。

「略法!護身加持!」

光が龍之介を包みこんだ。

「・・・これである程度の攻撃なら防御できます。妖怪の目くらましにもなりますから、きっとみなさんの所まで行けます」

「・・・お前・・・」

「どうした姫巫女よ。隙だらけだぞ?」

いつの間にか辺りを覆っていた光が消えたようだ。
しまった!と二人が思った瞬間に風が吹き抜ける。


「こんなところにいたんだ。そろそろ帰らなくちゃ晩ご飯に遅れちゃうよ?」

絶対絶命であろうこの場には相応しくないのんきな声。
いつの間にやら千鶴をお姫様抱っこで抱え、木の上に移動したその人物は、
とろけそうな顔で千鶴を見つめる。

「総司さん!」

千鶴は助かった!というように目を輝かせると、
沖田はその様子に満足そうに微笑む。

「おい、見てねぇで助けろよ!」

いまだに妖怪とにらみ合うような場所にいる龍之介は叫ぶが
そんな必死な声は沖田の冷たい目線と声によって拒絶される。

「・・・嫌だよ」

「なっ?!」

「総司さん?!」

何を言ってるんですか?!と千鶴は顔色を変える。

「・・・僕はもう、千鶴ちゃんの為にしか剣を抜かないって決めてるからね。・・・僕が守るのは君だけだよ。僕の剣は千鶴ちゃんの為のものだもの」

「・・・」

絶句した龍之介はこの場を忘れる勢いで呆れ返った。
守護者達の千鶴至上主義ぶりにはもう慣れたと思っていたが、それも勘違いだったようだ。
特に、この沖田という奴は群を抜いている、と龍之介は新たな情報を脳内に刻みつける。

「それに、どうして妖怪であるこの僕が人間の君を助けなくちゃいけないの?意味分かんないよ」

げんなりしたように沖田は溜息を吐く。

千鶴は今そんなこと言っている場合ではないでしょう!と目で訴えているが、
沖田は都合よく流す。

「千鶴ちゃん、迎えに来るのが遅くなっちゃってごめんね。そんなに僕に会いたがってると思わなかったからさ。もう大丈夫だからそんなに熱のこもった視線を向けないでよ。僕、我慢できなくなっちゃうでしょ?」

千鶴の頬を撫でて口説くように囁く沖田に龍之介はもはやこの場から消え去りたくなった。

千鶴は沖田の言葉に一瞬顔を赤くするが、そんな場合ではなかったと思い直し、
沖田を説得しようとする。

「総司さん、そんなことより助けてください!」

「・・・君の頼みなら叶えてあげたいけど、・・・でも、駄目。それは僕の主義に判するからね」

「総司さん・・・!」

守護者は基本的に千鶴に甘い。それはもう甘い。
過保護ともいうが、その甘さを例えるなら、
もともと甘すぎるお菓子に餡子と練乳と蜂蜜とをさらにたっぷりと加わえたような、
甘党ですらはだしで逃げ出す気持ち悪いぐらいの甘さだ。

故に基本的には千鶴の言葉には異を唱えないし、
絶対服従の雰囲気すらある。

沖田は気まぐれで千鶴をからかうことはあっても、
千鶴のことをないがしろには間違ってもしない。
しかし、それは自分の信条や誇り、信念に関わることを除く場合に限る。

頑固で自分の主張は絶対撤回しない彼ら守護者は、
一度決めたことは死んでも守りきる。
それは妖しの性とも言えることかもしれない。
とにかく、頭の固い彼らはテコでもコテでも動かせないのだ。

千鶴は何度もその場面に立ち会ってきた経験から、
沖田が絶対にその意見を曲げることはないと悟る。

「・・・わかりました。では、私のことは絶対に守ってくださいね」

「当たり前じゃない。例え僕が守護者でなかったとしても、僕は君を守るよ」

「・・・ありがとうございます」

ふわっとこちらまで和らぐ笑顔に沖田が腕の力を弱めた瞬間、
千鶴は行動を起こす。

そして彼女がとった行動は、守護者を加速させてさらに過保護にすることとなるのだった。




◆◆◆


「総司!!!てめぇ!千鶴に怪我させるたぁどういうことだ!?」


あの後。
沖田の腕から逃げ出した千鶴は龍之介の前に立ちはだかり、
自ら妖怪に身を差し出した。

これではもう沖田も動くしかない。

最初は千鶴を連れて逃げ出すつもりだったが、こうなっては仕方ないと妖怪を切り伏せた。

しかし、囮となった千鶴は無事ではなく、腕に怪我を負ってしまったのだった。

慌てて連れ帰り(千鶴がどうしてもと言うので不本意ながら龍之介も担いできた)
手当をした後、沖田を待っていたのは守護者たちの叱責と重圧だった。

近藤さんの時は誰も責めなかったくせに
と思わないでもないが、きっとそれはそれ、これはこれなのだろう。
やはりみな千鶴に対しては過保護だということだろうか。

状況説明だけでもう自分の役目は果たしたと思っていた
沖田は不満そうに眉をゆがめつつ弁明を試みる。

「・・・僕だってさせたくてさせたわけじゃありませんよ」

「しかし、千鶴が怪我をしたことは事実だ。いかに千鶴が怪我の治りが早かろうが、守護者として千鶴に怪我を負わせたことの責任は重い」

斎藤が真面目な表情で責め立てる。
「・・・だから、千鶴ちゃんの怪我のことは確かに僕が悪かったと思ってるよ。でも、人間のことまでは面倒見切れないよ」

「おいおい、総司。確かにあいつは人間だが、一応千鶴の客人でもあるんだぜ。千鶴の客人は俺らの客人だろうが」

原田もいつもとは違い、その表情は険しい。
「嫌だよ。僕はあんな奴を接待したくない。百歩譲って見送りくらいはしてあげるけど」

「・・・それ、追い出すってことじゃねーか」

「平助君うるさいよ」

「あの、みなさん、総司さんを責めないでください。これは私が自分勝手な行動をした結果ですから」

「千鶴・・・」

「・・・あのなぁ、お前がそう言っても、俺らは千鶴を守る義務があるんだよ。腐っても守護者だからな。それなのに、危ない妖怪がすぐそばにいて即座に切らなかった総司は守護者として失格だ」

「あの妖怪は別に千鶴ちゃんに手を出そうとしてたわけじゃなかったよ。一応自分の力の見極めはできてたみたいだし。姫巫女に手を出したらどうなるかもわかってないような馬鹿でもなかったしね」

「だが、千鶴に怪我を負わせたことは問題だ」

「・・・それは確かに僕の責任だけどさ。・・・千鶴ちゃん、ごめんね。まだ痛いよね?」

「いいえ。大丈夫ですよ総司さん」

「千鶴!お前がそう甘やかすから総司がな!」

話がさらにややこしくなりかけた時、それを止めたのは意外にも沖田本人だった。

「・・・僕は、千鶴ちゃんのためにしかもう剣を振るわない。・・・そう、近藤さんに約束したんだ」

その約束は、一方的なものでしかないけれど。

「・・・」

沖田の滅多に見せない真剣な表情と、久々に聞くその名前に一同は無言になる。

「はい」

そんな雰囲気の中、千鶴だけは花のように微笑んで沖田に手を伸ばし、
良い子良い子するように髪を撫でる。

「約束を守っている総司さんは素敵です」

「・・・ありがとう、千鶴ちゃん」

これだから、千鶴の守護者は止められないのだと沖田は思う。

沖田にとって心を救われる存在は、近藤亡き後、もう千鶴しかいない。

幼い自分の過ちの犠牲者が近藤だというのなら、
その過ちをもう二度と起こさぬようにと、心に決めた。

自分の驕りと無駄な力が大切なものを奪うくらいなら、
自分のその莫大な力すらも御すると誓った。

もう、けして失くさぬようにと。
そのためならば、どんなことも受け入れよう。
例え、蔑まれようとも、喧嘩を売られようとも。
それが千鶴に及ばぬ限り、自分は力をふるったりはしない。

それだけが、自分にできる唯一のけじめだ。

破ることは、近藤を裏切ることと同意だ。
それだけは避けねばならぬ。
どうしても。

だから、自分は強くなったのだ。
身体だけではなく心も鍛え、どんなことがあっても余裕を失わぬように。
自分を抑えられるように。

あの、自分に安らぎを与えてくれる唯一つの大切な人を、守れるように。
何者にも奪わせはしない。
自分の力からすらも。

絶対に、失くすわけにはいかないのだ。






「でも、千鶴ちゃん、あんな無茶はもうしちゃダメだよ?」

「はい。ごめんなさい」

「・・・ていうか、龍之介が勝手なことしなきゃ千鶴だって探しに行かなかったし、怪我もしなかったんじゃねぇの?」

「・・・」

なるほど、と平助の言葉に納得した守護者たちは
ますます龍之介への態度を冷たくするようになったという。


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まとまりがつかなくなった・・・。
でも、最後の後日談は書きたかったんです・・・。
龍之介かなり不憫な子です(笑)
沖田が書きやすいことに気づいてしまった。
しかし、本命は土方さん・・・。
彼は少人数だと結構しゃべってくれるんですが、
大人数だと代わりに左之とか斎藤くんが勝手にしゃべっちゃうんですよ・・・。
ああぁああああ・・・。

3時間ぐらいかかったわりにこの出来(苦笑)
あ~あ。

というか、近藤さんごめんなさい・・・。

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