2011年2月1日火曜日

噂と野望。




※堂郁前提の柴郁。
※別冊2後
※オリキャラ有
※色々捏造





ここ最近、堂上の機嫌はすこぶる悪い。
しかし本人は意地かプライドか、はたまたは三十路過ぎの男の機微か、
兎に角、機嫌が悪い事すら認めたくない様子なので
その眉間の皺が晴れる事はない。
当事者であるその妻は夫の機嫌の悪さには気づいているのだが、
いかせん不器用が災いしてフォローも失敗気味だ。
もし立場が逆ならば、愛しい奥さんの機嫌をとるなど大得意の堂上なのだが。
(郁の単純な性格もあるのだろうが、
なんせプライベートでの堂上の郁の甘やかしぶりと過保護ぶりは
図書隊では折り紙付きで有名な話である)
さて、前置きが長くなったが
何故そんなに堂上の機嫌が悪いのかというと言うまでもなく郁絡みである。
――――月日は1週間ばかり遡る。

ドサッと荷物か何かが落ちる音がした。
今は訓練中である。
そんな事に構っていられる余裕など皆無の隊員達はそのまま走り続ける。
もっとも気づかない隊員もいるようだが。
そこで鬼教官と噂されている唯一の女教官の怒鳴り声が響いた。

「全員止まれッ!お前ら!同じ隊の仲間が倒れたのに誰一人止まらず助けないとは何事だ!全員あと50周追加!水分摂取とトイレ休憩のみ許す!以上!」

全員が直立不動で上官のその容赦ない罰則事項を聞き青くなった。
そしてまた走り始めようとしたその時、手塚教官の焦ったような声が聞こえた。

「おいっ!?笠原っ!?」

冷静沈着かつクールで女子隊員に人気の的であるあの上官の取り乱したような声に
隊員達の目が向けられる。
そこには軽々と倒れた隊員を横抱きに抱えて運んでいる鬼教官の姿があった。

その日の夜。

「…で?ワケを聞かせてもらおうか?」

堂上の眉間の皺に郁は自分が何かやったらしい事は理解したが、
それを認める事は負けな気がした。
確かに無茶した自覚はある。
だが、その時はそれが最善だと思ったのだ。
堂上に責められるとは思いも寄らなかったし、
女教官として舐められない手だてでもあると思ったから反省はしていない。
しかし、堂上の渋面を見て少し後悔はしたが。

「なんであの時あそこでお前が動く必要があったんだ!男手は手塚も他にもいただろーが!というか、なんでそもそも姫抱っこなんだ?!」

「う〜。だって…」

「だってもでももない!お前は一応女なんだ!自覚しろと何度言えばわかるんだお前は!」

「・・・私、当麻事件の時にだって篤さん運びましたよ?それでも大丈夫だったじゃないですか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・それを、ここで持ち出すか貴様」

(あ・・・・・・・・)

言ってしまってから地雷を踏んだことに気づくが、今更どうしようもない。
郁に怪我をしたからといって背負われたことは
堂上にとってやはりあまり思い出したくないことらしい。
結局その後3割増しの迫力でお説教が続いたのは仕方がないことかもしれない。

堂上の機嫌を直すために柴崎に相談を持ちかけた郁だが、
柴崎の開口一番にいきなり後悔し始めることになる。

「まことしやかに広まってるわよ王子様。やっぱり2代目熊殺し兼2代目鬼教官の正体は素敵な白馬の王子様だったか〜。やるわね笠原!安達が悔しがってる気持ちもわかるわぁ。」

「うるさいっ!しょうがないでしょ!あの場合!」

「何がしょうがないよ。光の他にも男隊員はいたらしいのに。」

「その説教は聞き飽きた!もう終わった事なんだからいいでしょ!そのことはほっといて!」

「…まったく。それあんたの悪い癖よ〜。」

「はぁ?!」

「一方的にすぐに話終わらせちゃって相手を消化不良にさせるとこ。」

「〜うっ!」

結婚前の喧嘩など、思い当たることはいくつかあって否定できそうもない。

「自覚してるなら改めなさーい。ま、そう言った所でアンタには無理かもしれないけどね。」

「うう・・・。」

その通りだ。
柴崎はそんな郁に溜め息を吐くと脈略なく手を伸ばした。

「んっ!」

「…何その手。」

「お姫様抱っこして。」

「はぁ!?」

「笠原が王子様なら姫は私でしょ?」

「…何言ってんだアンタ大丈夫?」

「いいじゃない。笠原も噂になるなら私との方がいいでしょ?」

「…いや、余計な噂を増やすな!」

一瞬黙るが否定はしない笠原に柴崎は笑って手を引っ込めようとはしなかった。

「手塚にでもやってもらえ!」

「嫌。第一やらないわよあの男は。」

「…見たくないけど、柴崎が頼めばやると思うけど…。」

「兎に角!馬の骨のごとき一隊員があんたにお姫様抱っこされてるっていうのに、私にしないとは何事よ?」

「…いや、ちょっと待てアンタ何様よ!」

「柴崎麻子様よ?」
未来の女司令官の。

「…そうですね。…さてはそれがしてもらいたくてからかっただけだろアンタ。」

相談にのることなどはなから考えてなったに違いない。

「なんの事?」

しれっと流した柴崎は、やはりお姫様だっこを諦めていないようだ。

「…。」

最早開き直った柴崎に郁がかなうわけがない。
そもそも柴崎の要求を突っぱねられる程郁は強くもないし、怖い物知らずでもない。
結局は柴崎の望み通りに郁はするようになり、
堂上の機嫌が直るどころか
手塚からも堂上からも小言を言われ、
男性隊員には羨望の眼差しを向けられ、
安達がさらに柴崎に対抗意識を燃やし、
周囲には変な噂が広まるという、
何とも郁に取って害ばかりで得がない事態になるのだが、
郁が柴崎に勝てるわけはないので、
溜め息を吐きつつ容認する他ないのであった。

柴崎はそんな事態を予期できないわけでも、
認知していないはずもなく、ただ郁を満足そうに見ているのだった。


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柴崎麻子様の我が儘と郁の知られざる苦労。
でも柴崎は手塚でさえもめったに本当の我が儘を言わないので、
郁は自分だけに向けられる柴崎の我が儘は
絶対かなえてあげようと密かに決意していたりする。
柴崎はそれを知りつつも、郁に知られないように甘えていればいいと思います。

あれ。堂郁がメインのはずだったのに・・・。
何故こんなことに・・・。

諸々の突っ込みはなしの方向でよろしくお願いします・・・。

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