「郁っ!」
聞け、というような目に思わず固まって動けなくなる。
押し殺した声は、はたして何をこらえているのか。
◆◆◆
パンッと何かを叩いたような音が響いた。
一瞬にしてしんっとなったその場には、郁と堂上しかいないような錯覚に陥る程に静かだった。
その沈黙を堂上のよく通る低い声が破った。
「…今、何故俺がお前を叩いたかわかるか。」
郁は叩かれた頬を押さえ、沈黙したまま潤んだ目で堂上を真直ぐ見つめる。
その潤んだ目は堂上に叩かれた痛みかはたまたそれとは別の悔しさか—。
「…郁、答えろ。」
堂上が目に怒りを携えたままで郁を促すが、郁は口を結んだままだ。
「…お前がわからなければ教えてやる。…今さっき、作戦は終了と命令された筈だ。」
「でも!」
「お前にも聞こえただろう。」
「でも!」
「お前にも聞こえただろう。」
聞け、というような目に思わず固まって動けなくなる。
「…はい。」
「ならば何故、お前はその命令に背いた。…お前が命令に従っていれば、今、俺はお前を殴らなかった。この、意味がわかるか。…俺はお前が命令に背いた事を怒っているわけじゃない。…あと、30秒だ。あと30秒遅ければ、お前は今ここにはいなかったかもしれないんだぞ。」
押し殺した声は、はたして何をこらえているのか。
「…はい。」
「…俺達の仕事は確かに本と一般市民を守ることだ。だが、だからといってその為に身を投げ出す必要はない。…わかるな。…はい。…わかったら、…もう2度と…もう2度とあんな無茶なまねはするなっ!」
「…俺達の仕事は確かに本と一般市民を守ることだ。だが、だからといってその為に身を投げ出す必要はない。…わかるな。…はい。…わかったら、…もう2度と…もう2度とあんな無茶なまねはするなっ!」
今までで一番大きな声だった。聞いた事がない程の怒鳴り声だった。
初めてこんなに怒っている堂上を見た。
「…ごめん、なさい…。」
「…お前は俺を殺す気か…。」
声が震えている。こんな堂上を初めて見た。
目が潤んでいるように見えてもっと近くでのぞき込もうとすると、力強い腕に抱きしめられた。
震えているのは郁か堂上か—あるいは両者か。
何にせよ、郁は堂上の顔を見られなくなった。
「…篤さん…泣いてるの…?」
沈黙が返ってきた。
それが、答えだった。
「…ごめんなさい…。…ごめんなさい…。篤さん…。…泣かないで…。」
いつも堂上がしてくれるように何度も何度も撫でる。だが、震えは止まらない。
「…篤さん…。」
「…俺が、毎回毎回助けてやれるとは限らないんだぞ!」
「…はい。」
「…俺が、…俺は…。」
堂上が何かを呑み込む動作をする。
それは涙なのか怒りなのか悔しさなのか、郁にはわからない。
「…俺はっ…お前を、失いたくないっ…。」
堂上の涙声が郁の耳に響いた。
…ああ。私は、とんでもない事をしてしまった。
私は、こんなに私を愛してくれるこの人を、傷つけてしまった。
こんなに私を大切に想ってくれるこの人に、私をなんて事をしたんだろう。
私はこんなにも愛しいこの人に、なんて思いをさせてしてしまったんだろう。
郁は初めて後悔した。
動いた時は反射だった。その時は自分がその行動をする事に、何の迷いもなかった。
まさか、こんなに堂上を思い詰めてしまうとは思わなかった。
どんなに謝ってもきっと今の堂上には何にもならない事はわかっていたが、謝らずにいられなかった。
何度、堂上に謝った事だろう。
最後、堂上は軽いキスを郁にするとその身を離した。
その目はやっぱりまだ少しだけ赤かった。
いつの間にか周りは誰もいない。
おそらく小牧あたりが気を利かせたのだろう。
いったいどれほど時間がたったのだろうか。
そんな状況把握をしていた郁に、堂上はまたも低い、
でもきっと郁しか聞いたことはないだろう声で言った。
「…郁。今夜は寝れると思うなよ。」
郁が耳下で囁かれた言葉を頭で理解しないうちに堂上は歩き出した。
「あ、篤さん!?」
しばらく茫然としていた郁は慌てて堂上を追いかけた。
◆◆◆
「笠原がまた何かやったか。」
「…今回は洒落にならない暴走だったようですよ。」
「どうりで大人しいわけだ。」
堂上班を解体し手塚班結成にして初めての笠原の暴走。
結果として成功を収めたようだが、周りへの影響は半端なかったようだ。
「…やるとは思ってたが、本当に周りの予想の斜め上をいく奴だなぁ、おい。」
「…まあ、笠原だったからの結果ですが。」
もし他ならきっと大怪我—あるいは命はなかった。
安達が泣きそうな顔でいつまでもいるのは辛気くさいったらない。
たが、ここで堂上夫妻の邪魔をしようものなら事態は悪化するだろう。
「…まったく。世話の焼ける…。」
きっと班を解体してから堂上がずっと恐れていた事態だったのだろう。
その予想以上の事態が起こって、きっと誰もが混乱しているのだ。
—もし、班を解体していなくてもきっとこの事態は起こったに違いない。
ただ、堂上の本来の真面目な性格さや過保護さやその愛情故に、
もっと重い事になっているのだろう。
本当に不器用な奴ばかりで大変だ。
玄田は苦笑し、緒形に向き直って言った。
「おい、堂上と笠原に2日の公休やれ。」
「—了解。」
この優秀な副隊長は玄田の命令も予想済みだったのだろう。
手を止める事なく作業を続けている。
玄田はその様子に苦笑を深めながらため息をつく。
まったくみんなしてあいつらに甘いったらない。
—まあ、みんなで見守ってきたあの二人の幸せを祈っていない奴はこの部隊にはいないのだろうから、それも仕方がないのかもしれないが。
玄田は口下に笑みを浮かべると、嫌みたらしく、だが爽やかに堂上の机の上に自分の書類そのままを束にして放置した。
***************************
ごめんなさい・・・。
事件を考えるのが面倒だったんです・・・。←
堂上さんは公休後、しばらく残業&公休返上で働く羽目になりますw
でもまあ感謝してたりするので、隊長には何も言わずですがw
それを見越してる玄田さんには誰も敵わないだろうなぁ。
玄田は口下に笑みを浮かべると、嫌みたらしく、だが爽やかに堂上の机の上に自分の書類そのままを束にして放置した。
***************************
ごめんなさい・・・。
事件を考えるのが面倒だったんです・・・。←
堂上さんは公休後、しばらく残業&公休返上で働く羽目になりますw
でもまあ感謝してたりするので、隊長には何も言わずですがw
それを見越してる玄田さんには誰も敵わないだろうなぁ。
0 件のコメント:
コメントを投稿