2015年6月30日火曜日

小悪魔な彼女と俺。


※蓮キョ
※蓮年下(20)、キョーコ年上(24)のパラレル設定
※キョーコの生い立ち、蓮の生い立ちも異なります。
以下のシーンには関係ありませんが、それに伴い、尚とキョーコの関係も良好。兄妹的な。きっと蓮はヤキモチ妬きまくり。
※キョーコさんの性格はナツ寄りのおねーさんぶったかんじ。
蓮さんはキョーコの前では久遠少年的無邪気なかんじです。NOTへたれNOT帝王・魔王です。でも計画的な腹黒さな一面もありです。
※つまりなんでもありの捏造です






俺に役者としての心得を教えてくれたのは、彼女だった。

プロデューサーや監督に自分の解釈が採用されずに腐りかけていた俺は彼女に救われた。

多分、彼女に出会えなかったら俳優・『敦賀蓮』はなかっただろう。

そう。彼女は俺の恩人であり、尊敬する役者であり、大好きな女性だ。


◆◆◆


「京子さん!」

「あら…敦賀君」

「お久しぶりです。今日はもう上がりですか?」

「本当にご無沙汰だったわね。元気そうで良かったわ。…ええ。今日はあとは事務所に寄るだけよ。なあに?送って欲しいの?」
マネージャーいないと大変ねえ。敦賀君ならそれそろつけてもらえそうだけどねえ。

…なんて、あくまで彼女は事務所の『先輩』女優の立場だ。

俺が欲しいのは、そんな言葉じゃない。
もっと、もっと、本来の彼女が欲しい。

「そうじゃなくて…その、この後、食事に付き合ってもらえないかなって」

彼女が一人暮らしの俺の食生活を心配してるのは出会った頃からだ。
だから、これを言えば彼女が頷いてくれるんじゃないかと期待していた。

「珍しい。敦賀君から食事の話を振るなんて」

彼女は目を丸くして驚いていた。
こんな風に素直に感情を露わにするのは素に近い。
もっと、もっと、そんな彼女が見たい。

「キョーコさんがつくってくれたオムライスの味が忘れないないんです。…ダメですか?」

ダメ押しにしょんぼりとしたお伺いも立ててみる。
彼女がこの表情に弱いことは知っている。

結局、俺は自分が持てる全ての武器を駆使して彼女を家に招き入れたのだった。


◆◆◆


『いい?自分の解釈したキャラを生かすには、必ず相手が必要なの』

『いかに一人で素晴らしい演技をしたって、同じ土俵に立った相手が最低な演技しかしなかったら、そのシーンは見れたもんじゃないわ。』

『だからね、相手すら自分が【演技させる】んだ、くらいの気持ちで演じなさい』

『相手がもし、貴方の演技、キャラの解釈につられた反応を、シーンの流れや台詞を変えずにしたなら、それは貴方の解釈は間違ってない、最高のモノだったってことよ』

『難しいかもしれないけど、それができれば貴方は無敵よ。プロデューサーだって監督だって黙って貴方の解釈したキャラを受け入れるわ。もしかしたらシナリオを変えることだってあるかもね?」

『今まで色々言われてきっと気が滅入ってるかもしれないけど、貴方は貴方なりの演技をすればいいわ。貴方はそのままでいいのよ。貴方が自分の解釈を活かせるように、私が魔法をかけてあげる』

初めて会った時の彼女の言葉は全て一言一句違わずに覚えている。

それだけ俺の印象に深く残っているし、彼女に恋した決定的出来事だった。


◆◆◆

LME社を代表する日本一の女優と誉高い彼女。

彼女は純情で可憐な美少女であり、ボーイッシュで活発な少女でもあり、小悪魔な乙女でもあり、濃艶な美女でもあり、儚げなヤマトナデシコでもあった。
しまいには、ワンパクな美少年、影のあるシリアスな青年にすらなって魅せるのだから七変下するその美貌と雰囲気に呑まれてばかりだ。

彼女は、相手に演技をさせるのも上手だけど、相手をその気にさせるのも、煽るのも上手だった。
彼女と初めてお酒を呑んだ日、俺は冗談交じりに彼女を誘ったことがある。

数日前に、根も葉もないスキャンダルを取り上げられ、その日彼女は酷く酔っていた。

『ちょっと今、出てこれない?』
突然のそんな電話で俺は明日のスケジュールや今日の仕事の疲れなんて忘れて、慌てて家を飛び出した。

彼女が弱っている時、呼び出してくれる関係であることが堪らなくて。
少しでも、彼女が俺の存在を思い出してくれたことが嬉しくて。
俺を頼ってくれることが誇らしかった。

彼女が感傷に浸っている時に不謹慎だと思ったが、どうにもそんな事実に舞い上がっていた俺は、ついつい調子ずいた質問をしてしまった。

「俺とは?」

「だーめ、敦賀君とは絶対寝ない」


「どうして」

「…きっと、本気になってバカな女になるから」

俺が彼女を誘ったのはそれが一度きり。
あまりにも儚げに、泣きそうに笑う彼女に、それ以上言葉を紡げなかった。

なにより、それから3カ月避けられたのがキツかった。
俺に本気になるから駄目だと言った彼女は、俺と3カ月離れていても大丈夫なのだと、ショックだった。


◆◆◆

それは、彼女との交流が再開して一年近く経った日。
久しぶりの彼女との共演で、俺が浮かれていた時だった。

「はい」

「え…」

挨拶もそこそこに満面の笑みで渡されたもの。
驚きつつも素直に受け取る。

「今日、誕生日なんでしょう?だから、バレンタインを兼ねてプレゼント。敦賀君、甘いのは好きじゃないって言ってたらから、ワインゼリーにしてみたの。みんなは普通のチョコなんだけど、敦賀君は誕生日プレゼントと合わせてだから特別にサービスよ♪」

「あ…」

「なに?気に入らなかった?」

「いえ、そんな。ありがとうございます」

「なにー?バレンタイン当日じゃないとダメだった?でも、バレンタイン当日は私ロケで多分会えないだろうし、今渡した方が確実だし…」

「あの、なんで俺の誕生日…」

「ああ。私の後輩の子が今敦賀君と同じドラマ班にいるらしくて、その子が敦賀君の誕生日ドッキリの話してたからさ」

「え」

「敦賀君のことだからドッキリ気づいてそうって思ってたんだけど」

「あ、はい、それは…」

「やっぱり」

話をずらされて、気づけばいつもキョーコのペース。
その後はキョーコを迎えに来たマネージャーによってそのまま引きはがされてしまった。

その日の夜、蓮は溜息をつきながら久々にヤケ酒を煽っていた。

ワインゼリーは嬉しい。
みんなとは違って『特別』に蓮『だけ』にキョーコの手作りプレゼント。
普通なら感極まって『敦賀蓮』としての仕事にならないぐらいに顔面が崩壊していただろう。

だが、恋する男の欲望はその『特別なプレゼント』というモノだけではおさまらないのだ。

本当は。
キョーコが自分の誕生日を知らないだろう事を前提としたちょっとした計画を立ていた。
社が聞いたらならしょーもないと言われそうな、本当にささやかなおねだりを。

バレンタイン3日間前から馴染みのある人達や世話になったスタッフまでにチョコを配っている義理堅いキョーコだから、きっと蓮の誕生日を知らずにプレゼントもなかったということになれば、罪悪感を感じてくれると思った。
そのキョーコの優しさに付け込んで、蓮は別の日にキョーコに時間を取ってもらって、プレゼントを買ってもらうという名目で買い物デートをしたかった。
あわよくば、そのまま蓮のマンションで食事をしてケーキを食べながら、お祝いして欲しかった。
蓮が新人の頃、蓮を看病してくれたように、ずっと一緒にいてもらいたかったのだ。

いくら飲んでも酔えない気配に、もう今日はこのまま不貞寝しようと蓮はシャワーすら浴びずにベットルームに移動した。
その時だった。
ベットルームで充電したままだったスマホが震えた。

メールかと思ったそれは、思いのほか長く震動している。
社さんからだろうと予想し手に取ると、思いがけない人物の声に蓮の呼吸は一瞬止まった。

『あ、ごめん、寝てた?』

「キョ!!!…コ、さん…」

『あれもしかして呑んだ?』

「はい…ちょっと…。どうかしたんですか?」

『うーん…別に用事ってわけじゃないんだけどね』

「はい?」

『…敦賀君が、なんだか昼間、納得いってないかんじだったから』

「え?」

『でね、考えたんだけど、私、もしかしてすごく失礼なことしちゃったかなって』

「…?」

『私ね、誕生日がクリスマスの日なの』

「はい。知ってます」

キョーコの公式の情報は全てチェック済みの蓮である。
話が唐突に飛んだが、蓮はそのままキョーコの話に相槌をうつことにした。

『…あんまり両親が家にいなくて。知り合いの家に預けられることが多かったんだけどね。そこ、家でサービス業やってるから、祝日とかは稼ぎ時なんだよね。だから、私の誕生日はいつもイブとクリスマスと一緒にまとめちゃうの』

「…はい」

『私は子どもの頃にはね、それでもすごく嬉しかったの。誕生日祝ってもらえて。でもね、…モー子さん達と出会ってね、クリスマスとは別のイベントとして、私の誕生日として、祝ってもらえてね。すごく、すごく、涙が出るくらい、幸せで、嬉しくて、感動したの。…その時にね、気づいたの。私は《ついで》じゃなくて、《おまけ》でもなくて、ちゃんと私の誕生日を祝って貰いたかったんだなって。今まで、本当は寂しかったんだなって』

「…キョーコさん」

俺が小さな頃から貴方の隣にいたのなら、毎年祝ってあげられたのに。
そんな言葉が出かかって、慌てて口をつむんだ。
今それは彼女が求めている言葉ではない。
彼女の言いたいことを探るために蓮は言葉を最低限に抑えた。

『…ごめんなさい。敦賀君。バレンタインと一緒だなんて、私、最低なことしたわ』

「…」

『…怒ってる?』

無言な蓮の反応をキョ―コは怒りのせいだと思ったようだった。
本当に申し訳なさそうな声音。
蓮は《いえ、いいんです》と、そういうつもりだった。
でも、本当の恋する気持ちとやらはとても贅沢で。
蓮の口は欲望のままに動いていた。

「…キョーコさん。お願いがあるんです。聞いてくれますか?」

『え?何?』

突然の蓮の言葉にキョーコは面喰った様子ではあったが、そのまま蓮の話を促す。

「俺に、バレンタインのワインゼリーとは別の誕生日お祝いを買ってください。ただし、俺と一緒に買い物に行って俺が選んだやつを。そして、夜は俺のマンションでケーキを焼いてください。一緒に食事をして、一緒に俺の誕生日を祝ってください」

『…それで、いいの?』

「十分です」

『…敦賀君は、変わってるね』

「そうですか?」

『だって』

「むしろ、貴女の貴重な時間をつかわせてしまうことになるんですから、これ以上ない贅沢でしょう」

『…ふふふ』

いつもより彼女の声が甘い気がする。
そう感じるのは、酔いが回ってきたからか。
それとも蓮の願望がそう感じさせるのか。

だが、そんなことがどちらでも構わない。
蓮は彼女に恋をしている。
この気持ちが報われるのと、蓮が彼女と同じような日本を代表とする俳優になるのと、いったいどちらが先だろうか。
願わくば、どうか、両方の未来を掴みとれるように。


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前回の更新が4月だと…ということで温めていたものを連続でUP。

スキビ作品の観覧者が意外に多くて驚いたこともあり、無理矢理仕上げました。
シリーズ化したい気もするけど、どうだろう…。

蓮キョはハマり期間長いCP3位ぐらいにランキングしそうな勢いです。
蓮キョ美味しいよね…!

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