※スキビ(蓮キョ)
※若干未来設定
黒蓮様とちょっと弱気になってるキョコちゃん
【キョーコ】
月が綺麗なある晩のことだった。
美しく輝く月を見上げながら、今日はなんだか疲れたなぁ、と思った瞬間、浮かんだ顔があった。
いつも通り、仕事を終えて、明日のスケジュールの確認をして。
ふと、寂しさとも切なさとも言えぬ感情が込み上げてきた。
それは無気力感とも喪失感とも似ていたかもしれない。
なんとなく、一人ではいたくなかった。
誰かに傍にいて欲しくて。
無性にぬくもりが恋しくて。
何かを話していたくて。
じゃあ、その相手はって考えて。
あの大先輩しか思い浮かばなかった。
ただ、こんな時に会いたい人が、聞きたい声が、見たい顔が、
あの人の声で、顔であったことに自分でも驚いた。
大親友であるモー子さんでもなく。
お世話になっているだるまやの大将に女将さんでもなく。
まるで本当の姉妹のように慕ってくれているマリアちゃんでもなく。
師匠と仰ぎ、尊敬する父さんでもなく。
厳しくも優しく大人な大先輩だった。
忙しいあの人気俳優と簡単に連絡がとれるとは思えない。
ただでさえお疲れだろうに迷惑をかけるのは本意ではない。
でも少しだけなら、なんて甘えも顔を出して。
悩んで悩んで、ダメもとで手に取った携帯電話。
すぐに繋がらなかったら諦めて寝ようと思っていた。
それなのに。
「…最上さん?」
「今から、お邪魔してもいいですか?」
わずか2コールで出て下さった先輩は、唐突な私の言葉に、少し驚きつつも、
穏やかにただ頷いてくれた。
急に我が儘を言った私を責めるわけでも咎めるわけでもなく、
彼はわざわざ迎えにきてくれた。
そして辿り着いた彼のマンションのリビング。
無言だった部屋に、私の情けない震え混じりの声がぽつりと漏れる。
「別に何かあったわけじゃないんです…。…ただ…会いたく、なったんです…。」
「…うん…。」
「…声が、聞きたくて…。でも、…電話だけじゃ足りなくて。」
「…うん…。」
「…声を聞いたら、顔が、見たくなったんです…。」
「…うん…。」
「敦賀さんのせいですよ…私を甘やかすから…」
「俺はもっと君を甘やかしたいんだけどね?」
「もうこれ以上はダメです…」
私が、貴方なしでは生きれいられなくなったらどうするんですか。
怒ったはずだったのに、非難を込めたはずだったのに、
声は震えていて、出た言葉は弱々しく響いた。
「…ごめん…」
「なんで謝るんですか…」
「…俺はとっくに君なしじゃ生きていけないからね。」
「嘘です…。」
「嘘じゃないよ。…俺は、君が思うよう男じゃない。…すごく、情けなくて、ダメで…多分、君をがっかりさせてしまうぐらい。」
「そんなわけないです…。」
信じられない私の言葉を否定するように抱き寄せられた。
守るようにぎゅっと抱きしめてくれる腕が、逞しい胸板が、温かな体温が、心地良かった。
背中に感じるぬくもりが温かくて、愛おしくて。
ずっと、こうしていられたらいいのにって、我が儘を言いそうになった。
そんな私が不自然に黙ったのを、彼が見逃すはずはなく。
「キョーコ?」
名前を呼ぶだけで、私をいいようにしてしまう貴方が憎らしい。
貴方が呼ぶ私の名前は特別なの。
魔法がかかったように、私は。
「どうか、このままで…」
離して欲しかったわけではなかったけど、拒否されるのが怖くて強く握れなかった。
でも、彼はそんな私の心を見透かしたように、私の分まで強く、一晩中私を抱きしめてくれた。
翌朝、恥ずかしかったけど、頑張って好きです、と伝えたら、彼は見たこともない顔で笑ってくれた。
【蓮】
まるで蜘蛛が蝶を捕まえるように。
出口などない迷路の逃げ道を塞ぐように。
君に気づかれないように、君を捕えよう。
君が俺から離れられないように君を縛りつけよう。
君を失わないように。
君を手に入れよう。
常識とマナーと礼儀を重んじる彼女が、真夜中に俺に電話をくれた。
仕事のことでも演技の相談でもなく、ただ、俺を求めて頼ってくれた。
それがどんなに嬉しかったか、君は多分一生わからないだろう。
君が俺なしじゃいられなくなったらどうするんだ、と泣きそうな声で俺に縋った時、ただただ歓喜に震えた。
ようやく、彼女を手に入れた。
翌朝、彼女から告げられた愛の言葉。
―――もう、離さない。彼女は俺のモノだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿