カウンター1万突破ありがとうございます!
※八晴
※オリキャラ登場
『君の為』
―――君の為といいながら、それはきっと僕の為。
◆◆◆
はじめまして。
俺は明政大学に通うごく普通の学生だ。
わざわざ告げるほどの名はないが、まあ、A君とでも呼んでくれたまえ。
さて、いきなりだが、何を隠そう俺は一目惚れをした。
その相手は同じ大学に通うオケ部の小沢晴香ちゃん。
少しドジで、ちょっと天然な、でも優しくてかわいい女の子だ。
不覚にも大学のキャンパスで石に躓き転んだ俺を、
その子は小さな手を伸ばして俺を助け、怪我の手当までもしてくれた。
そして心配そうな大丈夫?が良かった、という笑顔に変わった瞬間、
俺の心はいまだかつてない衝撃を受けて、
まさに雷にでも打たれたかのように恋におちていた。
しかし、恋の神様というやつは意地悪で嫉妬深いもので、
簡単には俺の恋を叶えてくれるつもりはないらしい。
なんと彼女には男がいた。
俺の恋敵の名前は斉藤八雲、という名らしい。
しかし、その男、確かに端正な顔立ちで身長も高く、
カッコいいと言われればそう言えなくもないかもしれないが、
髪の寝ぐせはいつもすごいし、クマも目立ち、
無愛想だし、いつも1人でいるようなネクラっぽいやつだ。
俺は断じて彼女とやつが付き合っているなど認めん。
俺にとっては朗報なことに彼女とやつは結構喧嘩をしているらしいのだ。
あんなに優しい天使のような子を怒らすとはよっぽどのやつに違いない。
そもそも、彼女とやつが付き合っていること自体がおかしいのだ。
きっと彼女はやつに弱みを握られ、無理矢理付き合わされているんだ。
なんて可哀想なんだろう!
何としても俺が助けなければ!
そんなふうに脅されている彼女を助ける為にはまず彼をよく知る必要があるだろう。
もし彼の弱点などを知れればこっちのものだ。
そういった結論に達した俺は、自己流ながらも調査を開始した。
証言その1
斉藤?あ〜。細くて白いけど結構体力あるよなアイツ。あとは掴み所がないな。
静かそうで真面目かと思えば、しゃべる時はしゃべるし、結構授業サボるし…。
証言その2
結構見た目とギャップがあるよね。めんどくさそうにしてる割にはちゃんとやる時はやるし。
いつも眠そうだけど、実は周り見てるし。無愛想だけど小沢さんには優しいし面倒見良いよね。
証言その3
ああ、あの小沢と一緒にいる奴か?あんま関わんねぇから知らねぇけど、頭いいよな。
器用ていうか、要領良い。なんで小沢といるかわかんねぇけど、なんつ—か、小沢といると雰囲気和らぐよな。え?あの二人って付き合ってんの?へえ~。
同じ学部・ゼミの奴らからちらほら話を聞き、情報を集めると、
二人の関係はどうやら順調らしいことがわかったが、
俺にとってはそんな情報は得にならないし、逆にダメージを受けるだけだ。
というか、困ったことにやつの弱点がわからない。
ていうか、やつはめったに晴香ちゃん以外のやつと関わらないらしく、
情報が少なさすぎる。
このままでは色々と無理だ。
そう悟った俺は、とりあえずはり込むことにした。
◆◆◆
「それでね、美樹が…」
一人の男が恋の暴走を繰り広げる中、
晴香は八雲の住む部室を訪れ、お菓子をひろげながら談笑していた。
八雲もいつものように皮肉と嫌味を交えつつ適当に相槌を打っていたが、
ふと何かに気づいたように視線を窓に向けるとため息をついた。
「…君は、本当にトラブルを呼び込む天才だな」
「は?今日は別に何もしてないじゃない」
「今日は、ね。自覚が出てきたようでなりよりだ」
「ちょっと、何その言い方!」
「さて、…君は気づいていないかもしれないが、ここ何日か僕たちの周りで何かを嗅ぎ回っている馬鹿がいる」
「…え」
一瞬の沈黙の後にことの重大さをようやく理解したらしい晴香は
慌てたように先ほど八雲が視線を向けた窓の外を見た。
しかし、いつもと変わらずそびえ立つ木々があるだけだ。
「まあ、あれはどう考えても素人の尾行だったし、対して害もなさそうだから放置していたが…」
ふと何か思いついたように八雲は笑みをうっすらと浮かべ、
顔を晴香に近づける。
晴香は突然の八雲の行動に驚き反射的に身を引くが、八雲の方が早かった。
すると、突然窓の近くで何かがぶつかったような音が響いた。
その音に八雲は顔を引くと、いまだに反応できずにいる晴香を気にもせず窓を開けた。
その場で膝を押さえてうずくまっている青年は、どうやら転んだらしかった。
大方、木の蔭に隠れ、しかし身を乗り出したか何かの拍子に
木の根で転んだのだろうと推測した八雲は
めんどくさそうな調子で声をかけた。
「・・・で?お前か?こそこそと嗅ぎ回っているのは?」
「おまっ・・・、いや、なん、の、ことだ?」
必死に動揺を隠そうとしている青年に八雲は呆れたような目を向けるが、
青年は何とかこの場を切り抜けようと必死なのか、
幸か不幸かその様子に気づくことはなかった。
「いいですか。あなたの行為はストーカー行為に抵触します。僕には知り合いの警察もいます。出るとこにでてもいいんですが」
「な!」
「や、八雲君・・・」
晴香は不安げに八雲の裾をひく。
ストーカーらしく不審人物は晴香のその動きに目を見張ったが、
晴香が気づくことはなかった。
「まあ、何か事情があるなら説明して、もう二度とやらないと誓えるのでしたらこれで今回はそれで場をおさめますが?」
八雲は挑発するようににやりと人が悪そうに笑う。
男は怒りと屈辱に満ちた顔を真っ赤にしながら
踵を返し逃げ出そうとした。
しかし。
それも予想済みだったのか、八雲は行く手を塞ぐように立ちはだかると
携帯を取り出す。
いかにもな脅しに男はく、と悔しそうに唇をかんだ。
「で?どうしますか?」
余裕の笑みを崩さない八雲に逃げられないと悟ったのか、
男は晴香の方に向き直る。
一瞬びくりと晴香が肩を揺らした。
八雲が焦ったように晴香を庇おうとする隙をついて
男は今度こそ逃げ出した。
◆◆◆
ああ。なんということだろう。
これでは作戦が失敗だ。
それどころか、晴香ちゃんに不審者として認識されてしまった・・・!
これじゃ、想いを伝えるどころか、友達にだってなりづらい。
近づくことさえできないなんて・・・。
男泣きしそうだ。
そして何より打ちのめされたのは晴香ちゃんが俺を覚えてないってことだ。
しかも、怖がられたし・・・。
晴香ちゃん・・・!俺はあの日から1日も忘れたことなんてなかったのに・・・!
どうして俺を忘れしまったんだ・・・。
悲しみを煽るものはまだある。
晴香ちゃんが素直にあの男を頼っていた姿だ。
普通、無理矢理付き合っている男にあんな不安げに寄り添ったりはしない。
俺の考えは間違っているのか?
あの二人は本当に相思相愛なのか?
だったら俺はやっぱり失恋なのか?
諦めるしかないのか?
木に隠れながら窓からのぞいていた時に見えた
重なる2つの影が頭にフラッシュバックする。
俺を見ているのを知っていて平気でいちゃつくような奴に
晴香ちゃんが・・・。
ああ・・・晴香ちゃんの唇が・・・。
絶望と悲しみと怒りと嫉妬とどうにもならない感情が溢れる。
そこで、俺はすごく重要な出来事を思い出した。
さっきは二人の様子と晴香ちゃんに忘れられ怖がられたというショック、
さらには晴香ちゃんの前で情けなくカッコ悪い姿を見られた屈辱や怒りで
思わず逃げ出してきてしまったが、警察がどうこう言っていた。
まさかあれは本当なのか?
単なる脅しと思っていたが、どうなんだ?
頭から血の気がひき、頭痛もしてきた。
・・・晴香ちゃん、怖がっていたし、警察に突き出されても仕方がないかもしれない。
なんて、弱気になってしまう。
晴香ちゃんの為を思ってやったはずなのに、何一つうまくはいかないし、
逆に余計なことをしてしまったかもしれない。
恋とは難しい。
さっきぶつけた膝が無性に痛かった。
◆◆◆
「結局なんだったの?」
晴香は不思議そうに首を傾げたが、八雲は欠伸をして眠そうに
目をこするだけで晴香の問いには答えなかった。
そんな様子に晴香はむっとするが、八雲は言うつもりはさらさらないようだった。
「もう!教えてくれてもいいじゃない!」
「・・・君は、あの人物を知ってるんじゃないのか?」
「知ってたら言ってる」
「・・・そうか」
「なんなの?」
「・・・これは僕の推測だし、これを僕の口から言っていいのかもわからない」
「え?」
「ただ、僕には殺気のような視線を向けていた彼が、君には悪意の欠片もなかった、とだけは言っておく」
「・・・意味がわからないんだけど」
「君は相変わらず鈍いな」
「ちょっと!喧嘩売ってるの?」
「まさか。安堵してるんだよ」
「は?」
「いいか、今回は犯人が間抜けだったからいいようなものだが、あれはストーカーといっても過言じゃない」
「え、そんな大げさな・・・」
「実質的な害はなかったし、多分彼はもうこういった行動はしないだろうが・・・他にこういうことをしようとする物好きな奴がいる可能性もある。・・・君にも、十分気をつけてほしい」
「そんなこと言われても・・・」
晴香には事態がまったくわかっていないのだ。
これで気をつけろと言われても困る。
「なんで、もう行動してこないってわかるの?」
むしろ、怒って悪化したりないだろうか、という
晴香の心配を顧みず、八雲は馬鹿にしたように鼻をならす。
「さっき脅したし、あんな扱いをされてもう一度のこのこ目の前に現れるなんてよっぽどの馬鹿だな」
「確かに脅しは効くかもしれないけど・・・」
「まあ、しばらくは様子見ってことで、一人で行動するのは避けろよ」
「え?ストーカーって私のじゃなくて、八雲君をねらってたんじゃないの?」
殺気をむけていたらしいし、以前晴香と出会ったころには賭け事などをしていたことを
思い出し、それの怨恨と考えた晴香の予想はあっさり否定された。
「君は馬鹿か」
「はいはい。私はどうせ馬鹿です。だから説明してくれなくちゃわかんない」
「・・・もう少し、自覚を持ってくれ」
「だから、何の?」
「それが君の為だ」
「・・・わけわかんない」
ちゃんと説明しろ、という晴香の要求を
武士の情けでかわした八雲は鈍い恋人にため息をついた。
NXET・・・?
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オリキャラに名前を付けようとしたけど
そんなに愛も余裕もセンスもないのでこんな扱いでごめん。
今文庫友達に貸してるので確認できないのですが、
八雲の部室、窓ぐらいはあるよね・・・?
漫画版にはあったし・・・。
部室の外は捏造です。
祝9巻発売!
続きが早く読みたいです^^
本当は9巻発売前にUPするつもりでした・・・。
3月更新ないのはさすがにやばい!と急遽UP。
ほんとはまだかきたいことがあったのですが、
とりあえずはここまでで。
もしかしたら続くかもしれません。
『君の為』は二人からみた君の為。
君は同じ人物です。
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