2011年4月26日火曜日

仮面 



※八晴(付き合い前)
※6巻以降の時期(6巻ネタバレ含む)




その日はたまたま運が悪かったのだと思う。
そして、辛いことや嫌なことが重なったのだ。

我慢できないことではなかった。
小さな失敗とか大したことない些細な出来事。

でも、それでも沈んでしまったのはどうしてだろうか。
心地よい場所に慣れていたからだろうか。
楽しい日常に漬かっていたからだろうか。


まず、夢見が最悪だった。

お姉ちゃんの夢は、何度だって見た。
でも、久々だったからか、衝撃がすごかった。

八雲に会って解放されて以来、回数は格段に少なくなったが
何回かは見ていた。

でも、こんな気持ちになったのは初めてだった。

多分、お姉ちゃんの夢だけではなく、八雲がいなくなってしまった時のことや、
一心さんが亡くなった日のことまでも夢を見たのがいけなかったのだろうと思う。

普段ではあと4時間は寝れるだろうという時刻に、
しかし、もう目をつぶることはできなかった。

そしてそれが仇となり睡眠不足。
昼間、厳しい教授の講義にも関わらず寝てしまった。
それに気づかない教授ではなく、
難しい質問を当てられ答えられずに恥ずかしい思いをした。
加えて課題も増やされ、後日手伝いもしなくてはならなくなった。

サークルでもミスの連続。
みんなに迷惑はかけるし、
指導してくれる方は怒って帰ってしまい、
結局その日はほとんど何もしないまま終わりになってしまった。
あからさまに視線をくれたり文句をいう人はいなかったけど、
もっとちゃんとやりたい人達だって多かったろう。

そして財布をなくしたのに気づいたのも遅すぎた。
いつからなかったのかさえ記憶にない。

もうこんな日は家に帰ってしまおうかと思っても、
バイトを代わって欲しいと言われてしまい
結局押し切られてしまった。
ここでやっぱり断われなったのはお姉ちゃんの夢を見たからか。

そして。


「小沢っていつも笑ってるよな」

「え?そうかな?」

「そうそう。晴香って悩みなさそうだし」

「そんなことないよ~!単位とか、体重とか、色々・・・」

「そこで恋の悩みが出ないのが晴香よね~」

「もう!何よ!色気がなくて悪かったわね!」


バイト先でそんな話題が出てしまっては
もう誰にも愚痴や泣き言は言えない。

親しく気の置けない仲間。
みんないい人だし、優しい人達だ。
悪気があるわけではないこともわかっている。
本当に彼らには自分がそういう風に見えているということだろうし、
お姉ちゃんのことを引きずったままだった自分が
そう思われるようにしてきたということだ。

だから、結局悪いのは自分なのだ。

悪夢を見たとしても、睡眠をとるのは必要なことだ。
ちゃんと寝ておけばよかったのだ。
もしかしたら、今度は良い夢を見られたかもしれない。

そうしたら、講義中に寝ることもなく
サークルでのミスも抑えられただろう。
財布を失くしたのだってきっと寝不足で注意力が散漫だったせいだ。

バイトだってちゃんと断るべきだったのだ。

今日は、せっかく八雲から珍しく誘いを受けていたのに。

ああ。でも、こんな日に八雲の皮肉は辛いから
ちょうど良かったのかもしれない。

何時終わるのかわからないと言ったら
そうか、とだけ返ってきてそのまま途切れたメール。
・・・もっと粘ってよ。なんて呟いたところであの化け猫には届かない。



バイトからの帰り道。
自己嫌悪でますます落ち込んでいると突然肩を叩かれた。

いったい今度はなんだろう。
もう悪いことしか浮かばない。
というか、もうマンションが見えているのに最後の最後で。

今日はもう1人で大人しく家に籠って泣いて過ごしたかったのに。

「・・・おい」

目を、疑った。

「・・・な、んで、・・・八雲、君が・・・」

「・・・僕は、今日会わないとは言ってない」

「・・・それは、そうだけど・・・」

ずっと、待っていてくれたのだろうか。

まだ信じられなくて動けずにいると、八雲は珍しく皮肉もからかいもせずに
私を見つめ返した。

「何かあったのか」

「・・・別に、何も、ないよ?」

今日一日張りつかせていた笑顔を浮かべる。
八雲はそれを気持ち悪そうな目で見ると不貞腐れたような声で言った。

「・・・嘘をつくな」

「・・・」

「・・・晴香」

「・・・・・・・どう、して・・・」

わかってしまうんだろう?

部室を訪れると私のことなんて興味なさそうに視線もくれず
いつだってうっとおしそうにしている八雲。

出会ってまだ2年もたっていない。

それなのに、どうして。

彼は、見抜いてしまうんだろう?

抑えきれない涙は溢れて。

彼は私の頭を自分の胸に押し付けた。
私は我慢できずに八雲に縋りつく。

こんなこと前にもあったな、と冷静な自分がいた。







「落ち着いたか?」

外で号泣してしまった私に八雲は少し呆れつつも、
宥めるように背中に回してくれた腕はそのまま。

優しいんだよね。

また涙腺が緩むけど、ぐっと堪えてなんとか離れた。

「うん・・・ごめんね」

「・・・君は嘘がヘタなくせに無理をするな。・・・そのままの君でいいと前にも言っただろう」

「うん。・・・ありがとう。八雲君」


八雲君に会えてよかったと、思ったのはいったい何度目だろう。
きっと、私はこれからも何度だってそう思うに違いない。


外で立ち話もなんだから、と躊躇する八雲をマンションに招く。

外で待たせたお詫びといいつつココアを出した後、
今日あったことを話しているうちに私はまた泣いてしまうのだけど。

八雲はしょうがないな、というめんどくさそうな顔をしつつも、
結局私を甘やかして抱きしめて慰めてくれた。




ねぇ、知ってる?
仮面を剥いだそのままの私を抱きしめてくれるのはいつだって貴方なんだ。





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こういう日ってありません?
やることなすことすべて空回りっていうか、
もう駄目駄目で最悪で、どうしようもない日・・・。
そんな時は誰かの胸に縋って泣きたいじゃないですか!ってことで
八雲君に慰めてもらいましたv
これで付き合ってないと言い張る。

晴香ちゃんの泣き顔は誰よりも一番八雲が見てるというのは公式だと信じてます。

てか、このふたりってまだ出会ってそんなに月日がたってないのにびっくりです。
密度の濃い時間を過ごしてるってことですかね(笑)

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