※クジラの彼(冬原×聡子)
※プロポーズ後
※捏造有
その光景を見た途端、聡子は走り出した。そのまま逃げ切りたかったが、流石は自衛官。
すぐに追いつかれてしまう。掴まれた腕を振り払おうとしたが、無駄に終わった。
震える声を懸命に保ち、俯く顔をなんとか上げる。
「…私待ってない方が良かった?」
冬原の顔が強張った。
—もしかして墓穴掘った?
堪えていた涙がこぼれた。
冬原の反応が怖い。
「え?!ちょ、待った!!いきなり泣くのは反則!!」
そんな言葉にます�涙が溢れる。
「…だって…。」
「…とりあえず、場所変えよう。歩ける?」
反応が遅れた。
(え。ちょっと待って。)
私の部屋で別れ話?
・・・それはちょっと遠慮したい。
帰ってくる度に思い出し泣きしそうだ。
首をぶん�振り拒否すると、歩けないと解釈されたのか、抱き上げられた。
さすがに涙も引っ込み赤面する。
「ハル!違う!降ろして!歩けるから!私の部屋に行くのが嫌なだけ!」
「…なんで。」
ハルの声のトーンが今までになく下がった。
また潤んできた私に気づき、ハルは慌て私を降ろした。
「…ファミレス行く?」
「…。」
ハルと付き合った場所で別れ話か。
皮肉なような運命的なような。
(もう絶対あのファミレスには行けない。)
そう確信しながら、自分の部屋よりましだと聡子は頷いた。
「…聡子?何でいきなり逃げたの?」
「…。」
それを聞くのか。私に。
答えないで嗚咽だけを返すと、ハルはまた慌てた。
「聡子?!ごめん!言い方きつかった?!」
また首をブン�振ると、ハルは涙をナプキンで拭いてくれた。
「…え—とマリッジブルーか何かとか?」
「…それはハルの方でしょう。」
「は?!」
「…さっき、女の人と一緒だったじゃない…。」
まだ、聡子でさえ帰ってきたハルに会えていなかったのに。
婚約者よりも先に会うことを優先するような人がいるなら、その人と結婚すればいい。
…聡子より数倍綺麗な美人で若いキャリアウーマン風な女性だった。
マリッジブルーにかかった男が、さぞかし心惹かれるような相手だろう。
自分じゃ足元にも及ばない。
—ハルが待ってて欲しいのは私だけじゃないんだ。
ハルはモテるし、正直プロポーズされた時も信じられない気持ちでいっぱいだった。
こんなに幸せでいいんだろうか、と。
(…あぁ。やっぱり。)
どうやら自分もマリッジブルーにかかっているのかもしれない。
…でも。
私はハル以外の人なんて考えられかったのに。
ハルはそうではないのだ。
「…わ、私より先に会いたい人だったんでしょう…。」
きっと聡子のように泣き虫じゃなくて。ハルを支えて癒やすことができる、強い人なのだろう。
—聡子のように、ハルを傷つけるあんなことも言わないような。
静かに涙を流す聡子に、最早周囲の目を気にせずハルは聡子の涙を拭いていたナプキンを持つ手を降ろす。そして手で口元を覆った。
その場違いな動作に聡子が不審げに見上げる。
—珍しい。照れているような、ニヤケているような。
聡子の様子に気づいてハルはバツの悪そうな顔をした。
「…勘違いさせてごめん。でもアレ、夏の彼女だよ。」
「…え?…夏、さん…?」
ハルは呆けた聡子の髪を撫でて、耳元で囁いた。
「…ヤキモチ焼いてくれたってことってでいい?」
聡子の頬に赤見が差した。
泣いたから、というわけではなさそうである。
「…う……。」
「納得?」
笑顔が悔しい。
さっきの顔もこういうことか。
「…なんで、夏さんの彼女が…。」
「夏もいたんだけど、ちょっとパシったからさ。席外してたんだよね。」
「…ごめん。」
恥ずかしい。馬鹿みたいだ。
勝手に勘違いして勝手に嫉妬して勝手に泣いて。
「いや、俺もごめん。…こんな事で泣かせちゃったしね。…でも…一言、声かけて欲しかったかな。そしたら紹介できたし。」
ハルが苦笑した。
「…でも、たまにはいいね。・・・嬉しいよ。」
聡子、俺が合コンとかいっても妬いてくれなし。
—これはまた耳元で囁かれた言葉である。
少しの沈黙の後、聡子がまだ瞳に涙を溜めながら微かな声で呟いた。
「…ハル。帰ってきたら私に一番先に会いに来て。」
—本当は迎えに行きたいけど、無理なのはわかっている。
一番先に顔を見たいけど、現実的にそれは無理だ。
だからせめて。
婚約者のそんな可愛いお願い事に、逆らう理由も気もない冬原はキスする事で了承した。
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わたしは断然冬原派です。
図書戦ではもち堂上さんですが、海の底では絶対に冬原さんプッシュ。
望ちゃんがあんまり好くないんだもん。
聡子のようなセンスの良い大人な女性はいい!
そして泣き虫っていうのもまたツボです。
ハルは連れ添うのが長くなるごとに惚れ直してればいい。
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