2017年8月18日金曜日

嘯くは君のために非ず。


忍恋(真かえ)

※とある方に捧げたもの




「ねえ、医療忍術を学んでみる気はない?」
「え?」

唐突の俺の問いに、首を傾げる彼女が愛おしく、可愛らしく、やっぱりこの想いを嘘にしなくて良かった、と心底思う。
今はもう傷跡すら残っていない手のひらに口付けると、彼女の頬は赤く染まる。いつまでも初々しい反応を楽しみつつ、彼女を諭すような口調で語りかける。

「最近は修行をして怪我をすることも少なくなってきたけど、やっぱり修行に怪我は付き物だしね。俺がいつも癒してあげたいとは思うけど、
いつも一緒にいれるわけではないし。自分でも治療出来るようになったほうが、安心だろう?」

女の子なんだし、治療が遅くなって傷跡が残っては大変だ、なんて彼女の傷痕すら愛おしく思ってしまうだろう俺が言うことではないが。

それでも素直で真面目な彼女は俺の言葉に頷き、聞き入れてくれた。

「…そうですよね。先生や穴山先輩にいつもお願いしてますけど、毎回ご迷惑をかけるわけには…」
「迷惑なんかじゃないよ。むしろもっと君には甘えて頼って欲しいと思ってるよ?…………でもね、穴山は治療する時に癖だと言って君に触るし、そもそも穴山と君を近づけさせたくないというか…」
「え?」

思わずこぼれた本音が小声で良かった。
後半は聞こえなかったらしい彼女に安堵しする。
そして、なんでもないよ、と誤魔化して、もっともらしいことを続ける。

「それに、真田勇士隊を目指すなら、医療忍術はできたほうがいいと思うよ」
「そうですよね!一流の忍者になるためにも、頑張ります!」
「うんうん。いい心意気だね。でも、今日は君も訓練で疲れてるだろうし、手の傷も癒えたばかりだ。修行は明日からにして…」
「特別授業、ですね」

二人での修行は久しぶりですねと、嬉しそうに笑う純粋な彼女を眩しく感じながらも、俺は余裕のある男に見えるよう笑みを返した。

―――彼女のため、と嘯く俺の本心に、どうか気づかないで欲しいと願いながら。

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