2013年12月9日月曜日

How much? ~愛でお金は払えるか~  【オリジナル】


※オリジナル

※ラブコメ

※夫婦

※大人向け表現あり

※三人称の名前なしのため、わかりづらいです







早朝。
これから出勤という時間帯に、朝ごはんの準備も終わり、さあ頂こうという時に、妻は俯いたまま深刻な顔で、重い口を開いた。


「離婚してください」


その言葉の意味を認識した直後、彼はすぐさま己の妻を抱き上げると
抵抗をものともせず、ベッドへと直行した。



◆◆◆


初めてその言葉を聞いた時は、あわや監禁、というところまで本当にいった。

自分がどれほど彼女を愛しているか。溺れているか。必要としているか。
彼女がいなければ自分がどれほどダメになるか。

男や年上のプライドなどかなぐり捨て、逃げる彼女を捕まえ、体で縛り、愛を告白し、懇願し、理詰めで説得し、情に訴え、過去や未来の話を持ち出し、社会的立場を利用し、彼女を引きとめ、改めさせるための考え得ること全てを実行した。

それは出るところに出ればDV以上の犯罪になりえただろうが、
夫を誰よりも信頼し、愛している優しい奥方はそんな考えなど浮かばなかったようだった。


妻を寝室に閉じ込めて3日目の深夜、とうとう彼女は根負けして、ずっと言わぬままだった離婚を求める理由を口にした。


『父がどこかの女に借金をして、その利子が払えなくなったから、お金を貸してほしいと言われた。何百万というお金の借金だなんて、あなたにも迷惑がかかる。そんなことは本意ではないし申し訳ないから、どうか離婚して欲しい』


彼はその時ほど自分の家が資産家であり、己が大財閥の社長であり、妻が専業主婦であることに喜びを感じたことはない。
神など信じる性分ではなかったが、人生3度目の感謝を捧げたほどだ。
(ちなみに1度目は妻との交際にようやっとOKをもらえた時、2度目は彼女にプロポーズの返事を三度目にしてなんとか言質をとった時である。)


百万単位の借金など何度でも払える自信も甲斐性もあったし、
愛してやまない妻を手に入れたまま離さず、捕え、縛り続ける都合のいい枷(理由)ができたとすら思った。

何度目かの行為ゆえにクタクタな妻とは逆に、潤った様子の夫はネクタイを締めながら尋ねる。

「・・・で?今回はいくらかな?」

振り込んでおくから、と嫌味ではなくにっこりと完璧な笑顔でカードを差し出した夫に、妻は涙ぐみながらそのカードをつき返した。


「いいえ!今回こそは受け取れません!!それはあなたのお金です!!」

「ダメだよ。・・・そんな金を稼ぐために、君はいなくなるんだろう?」

「!・・・そ、それは、・・・だって、わたしの父の問題ですし・・・」

「君のお父さんなら、俺の義父ってことだろう?」

「でも、お金のことですし、そういう問題では・・・!」

「異議は受け付けない。だいたい、いつも払える金額じゃないか」

「それは、そうかもしれませんが・・・!でも、それはあなたが・・・んっ!」

「・・・これ以上言うなら、また、3日間、閉じこもろうか?」

「っ!」

「ん?」

妻をベッドに押し倒して、妖しい手つきで太腿に手を這わせる夫の笑顔に怯えながら、妻は弱々しくも抵抗を試みる。

「・・・いや、です・・・」

「うん、俺もどちらかといえば、穏便に済ませたいんだ。会社だってあるし」

「・・・」

「・・・いいね?」

「・・・私、やっぱり、働き・・・」


なおもいい募る妻の名前をいささか強い響きで呼ぶと、
彼女はびくっと肩を震わせた後、諦めたように溜息をついた。

内心、溜息をつきたいのはこっちだよ、と思いつつも、
彼は笑顔でいってきますのキスを妻に求めた。

「いい子にしてるんだよ?」
俺から離れようとしたら許さないからね?

紛れもない本心を冗談めかしたように言う夫の言葉を、いったいどれほど本気で受け取っているのか、妻は朝のキスにしては濃厚なソレに頬を上気させ、上目遣いで夫を睨んだ。



◆◆◆



付き合う前から、ずいぶん金銭感覚がしっかりした子だなあとは思ってはいた。

性別も異なり、しかも自分の方が年上であるにも関わらず、頑なに割り勘を希望する彼女に、いまどきというか、女性では珍しいという印象は受けていた。

だいたいの女性は男の経済力に弱く、甘え、頼るものだという認識のあった彼は、そんな彼女を最初は好ましく思っていた。
しかし、付き合うようになった後でもそういった経済面での甘えを見せなかった彼女に、彼は内心不満や疑心を感じるようになった。
自分では頼りないか、自分の稼ぎはそれほどまでに心もとないかと冗談交じりで、時には真顔で尋ねた時もあったが、彼女はやはり彼に奢られようとはしなかった。
無理に彼が奢った時もあったが、そういう時はプレゼントや他のもので補う彼女。
男の顔を立ててくれ、と本気で頼んだこともあったが、彼女は頑なにそれを拒んだ。

結婚した後も、彼女は働こうとしていたが、無理矢理言い聞かせ、
騙すような形でそれを阻止した。


なぜそれほどまでに経済面・金銭感覚に厳しかったのか、幸せな結婚生活が2年ほど過ぎた時に彼は知った。

全ての原因は彼女の実の父だった。

結婚する前まで、彼女は母子家庭で育ったと言っていて、実際結婚式には彼女の母の強い意見もあり、彼女の父はいないものとして招待状すら出さなかった。(母子家庭ゆえにお金に苦労したことが原因かとも考えていたが、それは半分当たりで半分ハズレだったと言える。)
ゆえに彼は彼女の父親の存在すら認知しておらず、独自にも調べていたのだが、調査は難航し、結婚2年目、彼女と出会って5年目にしてようやく彼はその男と相まみえた。


難儀な男だと思った。

こんな父親を持った彼女が可哀想だとは思ったが、彼女を作った存在の半分であり、今の彼女を構成する要素であり、彼女と流れる血が同じである、というだけで、嫉妬とも羨望ともつかぬ親しみが込み上げるのだから自分も相当だ。


彼女を愛しすぎている自分に何度溜息をついたか数えることなど早々に諦めていたが、絶対にもう億、兆を超えているだろうと、今更に自分を呪った。

彼女の父親は、自分が悲劇のヒーローであるかのように、真顔で言った。


「俺にいったいどれだけ金を出してくれる奴がいるか、俺はそれを確かめてるんだ」

「は?」

「世の中、所詮金だ。目に見えねえ愛だ絆だなんだなんて信じられねえ。目に見える評価ってのは、一番表しやすいのは金なんだよ」


妻を溺愛し、どうすればこの気持ちをあますことなく彼女に伝えられるのかと苦心している彼にとって、それは1つの手段とはなりえたが、しかし心からの賛同をする気にもなれず、頷く程度にとどめる。

すると、彼女の父は口元を少し上げ、彼を試すように尋ねた。

「お前さん、あいつのためになら全財産捨てられるか?」

「もちろんです」

「即答か・・・。まあ嘘でも一応褒めてやる。口で言った所で根拠もねえがな」

「俺は彼女を心底愛しています。彼女を助けるためなら金などいくらでも払います」

「お綺麗なこって。・・・だめだめだな。そんなんあんたの本心じゃねえ。人間、もっと汚いだろ?そんな上辺だけの言葉なんていらねえんだよ」

「・・・わかりました。言葉を言い換えましょう。・・・彼女を手に入れるためなら、俺のモノにできるなら、どんな汚い金だって、汚い手口だって、なんだって使ってみせます。例え、彼女が泣いても、拒絶しても、どんなことでもやりますよ、俺は。」

彼女が欲しいんです。

娘とそう変わらぬ年齢の男の本心など最初から見透かしていたのか、今の言葉で本当だと悟ったのか、愛しい彼女の父親は、ニヤニヤと下品な顔を隠そうともせずに、からかいの言葉を投げた。

「ベタ惚れだな」

「・・・今更です。じゃなきゃ、こんなめんどくさい父親の世話なんて見ませんよ」

そう。彼女の為じゃない、自分のためだ。
彼女を自分のモノにするための。

だから彼女はお金のことなど気にしなくていいのだ。
これは自分のための投資なのだから。


◆◆◆


目が覚めると、夕方だった。
まだ体中が痛くて起き上がれそうになかった。
朝からお昼近くまで何度も求められた体は、年なのか、日頃の運動不足なのか、なかなか回復はしないらしい。

諦めてベッドの上に寝転がったまま、ぼんやりと天井を眺めて思案に暮れる。

出ていこう、という決意は過去に何度でもしていた。

でも、彼がそれを許してはくれなかった。


もはや決まり文句となっている私の別れを求める言葉を聞いた彼は、
そのあと2、3週間は私にSPという名の見張りをつける。

父の借金相手に狙われるかもしれないから、という理由が大義名分なのはバレバレだ。
自分から逃げられないように見張っているのだ。


最初は気づかずに離婚届を書いて家を飛び出した時があった。
しかし、わずか3時間で居所がバレて、夫が怖い笑顔で迎えに来て、
逃走劇はそこで幕は閉じ、軽い家出にもならずに終わった。
もっとも、その後はとても軽い、で済まされるような半端な行為ではなかったのだが。(おかげで3日間はベッドの上の生活だった)


父に始まり、自分の男性運のなさはいったいどれほどなのだ、と恨み辛みを神様にぶつけてみるが、天におわす神様は、地上の人間のことなど無関心らしく、私の愚痴や悩みなどが解消されるわけもない。

このまま一生男に翻弄されて生涯を過ごすのか、という軽い絶望が襲ってきたが、やはり見捨てられぬのだからしょうがない。

唯一の救いは彼を愛していることだろうか。

あそこまでの愛情を一心に捧げられて絆されないものはいないだろう。

容姿も性格も(暴走しなければ)なにかもが完璧な彼がなぜ私などを選び、執着しているのかは永遠の謎だが、もう諦めて彼の愛を享受しようと覚悟を決め、彼女は瞼を閉じた。

―――もっとも、そんな彼女の覚悟と決意は、彼女の父の言葉に何度でも覆され、夫である男と何度でもガチバトルを繰り広げることになるのだが。

そんな彼女の運命は、いかに?




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嫁キャラ専用ATMという話はよく聞くので、実際の嫁専用ATMになったらどんなかんじだろう~みたいなノリで書いたら、こんなになりました。

もとはとある漫画で、ヒロインの父親の描写ないし、きっと最低男だろうなっていう2次で考えてた…ら、なんかパロの域を超えたので、オリジナルで。


気に入っている設定なので、続くかもしれません。
ていうか、シリーズで彼らがくっつくまでの話とか書きたい。

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