2013年6月20日木曜日

君の重要性。




※寅撫

※壊れた世界ED後







あたりには、恐ろしいほどの沈黙が流れていた。

もともとこの壊れた世界の空は燻っていて暗い雰囲気だが、
この場の空気はそれに加えてさらに重かった。

それの原因であるところの若旦那は、これ以上ないほどの不機嫌な様子で
険悪なオーラを背負っていた。

楓がなんとかしようと口を開こうとしたが、いかんせん
彼には口にできる言葉を持ち得なかった。

なにせ楓の中での絶対最強の呪文かつ最終奥義
「お嬢に怒られますよ」はこの場では効力を有しない。
最悪、悪化させてしまう恐れすらあった。

結局は沈黙の時間を刻むことしかできない。

なぜこんなことになったのか。

楓は泣きながら逃げ出したい気持ちを堪えて心の中で助けを求めた。

乱暴で喧嘩っぱやいが、普段は冷静でわりと常識人な若旦那――寅之助の機嫌を
損ねる原因は十中八九お嬢――撫子であるが、彼の機嫌を回復させることができるのも、
やっぱり彼女しかいないのだ。


◆◆◆


その日の朝、撫子は眠たい目をこすり、
いまだに慣れない運動に疲弊した身体をひきづりながらも、
なんとか起き上がった。

隣には気持ちよさそうに寅之助が眠っている。

夜中に仕事から帰ってきて疲れているのと、
昨日の余計な運動が寅之助にこうした熟睡を促しているのだろう。

無理しないで身体を休めて欲しいのに、といつも思うのだが、
寅之助曰く、暴れて帰ってくると興奮と衝動の抑えが効かないので
むしろ発散した方が身体にいいらしい。

そういう問題ではないと撫子は思うのだが、
問答無用で寅之助は撫子に触れたがる。

事前に襲撃や任務の仕事だと告げられている際は、
撫子は寅之助はもちろん、組織のみんなが怪我をしませんように、
無駄な血が流れませんように、といつもハラハラしながら彼らの帰還を待っている。

自分の無力感や置いて行かれたさみしさ、彼らが無事で帰ってきた安堵の気持ち、
求められるうれしさもあって、結局いつも寅之助に流されてしまうのだが、
昨夜はやっぱり何としてでも断るべきだったと後悔がこみ上げる。

今日は情報屋――南地区の彼との情報収集の約束があるのだ。

なんとか待ち合わせ時間には間に合うだろうが、
この疲労感と眠たさは撫子をベットから出ようという感情を削ぐ。

しかし、チャンスは寅之助が寝ている今しかない。

独占欲が強く、嫉妬深い寅之助は撫子が人と会うのを極端に嫌う。
子どもでも同性でも渋い顔をするのに
若い男だと知られた日には一人で自由に外に出ることを禁止されてしまう、
と撫子は危機感を抱いていた。

撫子は寅之助のものだが、寅之助も撫子のものである限り、
一方的に行動を制限されるような関係ではない、と思う撫子は
少々の心配を頭を振ることで誤魔化して、睡眠欲に負けそうな重い身体に鞭をうちつつ
そっとベットから抜け出した。

もぞっと布団が動いたことに、気づく余裕はなく。



◆◆◆


「え?」

「英央っていうだ、僕」

にっこりと笑って告げられた名前は、とても懐かしく、聞き覚えのあるものだった。

「央・・・?本当に央なの?!」

彼とこうして密談を交わすのはもう両手程になるだろうか。
片手程の時では教えてもらえなかった名前を、
彼――英央はようやく明かしてくれた。

ようやく信頼を勝ち得て名前を知れた喜びと、
課題メンバーの一人に会えた感動で、思わず撫子は央に抱きついた。

「央!会いたかったわ!うれしい!」

いきなりの撫子の行動に照れて頬を染めつつも戸惑っている央に
撫子は興奮気味に言った。

「私、九楼撫子よ。小学校で一緒だったの!」

「え?」

「あ、もしかしたら直接は会ってないのかしら・・・。央は、やっぱり、私を知らない・・・?」

撫子にしては珍しく感情を高ぶらせた後、
央が困惑した様子に気づくと一瞬にしてしゅん、と悲しそうに目を潤ませる。

央は撫子の反応に焦ったように考え込むと、数分の後、
ああ!と難問が解けたような晴れやかな笑みを浮かべた。

「思い出したよ!円の友達だったよね!」

この世界での事情は知らない撫子はそれが本当かは
わからなかったが、央は嘘をつくような人ではない、と
思い直し、曖昧にほほ笑む。

「ええ。確か、そんな感じ」

「そっかぁ。懐かしいな。パーティーで会った以来だね。元気そうでよかったよ」

もう何回も会っているのにおかしな会話だったが、
そんなことはどうでもよかった。

「ねえ、円は?」

気になっていたことを聞くと、央は気まずそうに目線をそらした。

「それが・・・実は、まだ、見つかってないんだ」

「そう、なの・・・」

悪いことを聞いてしまったかと撫子は焦るが、そこは央だった。

「でもまあ、円は頭がいいし、絶対大丈夫だよ!」

「そ、そうよね!」

沈みそうになる気持ちを叱咤する。
心配な気持ちはあるが、信じるしかない。

「でも、本当によかった」

撫子と央はほのぼのと会話を続ける。
撫子はかなり浮かれていた。
それゆえに、まだ央と抱きついていたままであり、
距離が近いことを気にとめていなかった。

そして。


「――てめえ、殺される覚悟は、できてるんだろうな?」

低い声が、響いた。



◆◆◆


その場で自分の恋人に抱きつかれたままでいた若い男を
殴らなかった自分の理性を誰か褒めてくれてもいいだろう、というのは
寅之助の主張だ。

以前の彼ならば問答無用で半殺し以上に殴っただろうが、
その衝動を抑えられたのはひとえに撫子の存在ゆえだ。

一発触発の雰囲気はいまだに崩れることはなかったが、
キレかけた寅之助を押しとどめられた撫子の力に
英央はそんな場合ではないとわかりつつも心の中で大層感心していた。

撫子がいなかったらあの場で殺されてたろうなぁとは
きっと誰も否定できない事実だろう。

撫子と寅之助が一度消えた間に一体何があったかは聞きたくない、
というか興味はありつつも聞いてはいけないことだという認識はある央は
賢明なことに口には出さずにそんなことを考えていた。

「で、てめえは誰だ?」

目つきの悪いのは生まれつきか、しかし明らかに後ろのオーラは威嚇のための彼仕様だろう。
まさに蛇に睨まれたカエル状態だ。

そして話は冒頭に戻るわけである。


END?



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一般的には残留EDって呼ばれてるっぽいけど、
個人的に残留って言葉の響きが好きではないので
壊れた世界EDって呼び隊。

でもわかりにくいかな・・・。


寅撫もっとふえろおおおおおお


遅くなったけど央誕生日おめでとう!
FD欲しいよおおおおおおおお

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