2011年12月31日土曜日

マツヨイグサ


※八晴







…どうしよう…。



晴香は今にも泣き出しそうな空を見上げながらため息を吐いた。
いつものことと言ってしまえばそれまでだが八雲と喧嘩をした。
きっかけは些細なことだったと思うけど、もう原因は何か思い出せない。
売り言葉に買い言葉で、気づけば部室を飛び出していた。

携帯も財布も家の鍵も入っているバックは部室に置いてきた、と気がついた時には後の祭りだ。
これでは家にも帰れないし、友人を頼ることも、どこかお店に行くことも出来ない。

八雲はどうせそのことに気づいていて、
晴香が自分からバックを取りに戻ってくると思っているだろうから、
絶対晴香を探して迎えになんて来てくれないだろう。
もっとも、端からそんな確率なんてゼロに近いのだが。

素直に謝れば済むことも頭ではわかっているのだが、
そんなことできるならば喧嘩になんてなっていない。

泣きそうになりながら再びため息を吐くと、肩を叩かれた。

一瞬期待して振り向くが、しかし、そこはある意味で予想通り、
期待した人物ではなかった。


「泣いてるの?こんな可愛い女の子泣かすなんて最低な奴だね。そんな奴忘れて俺と遊ばない?」


見るからに軽そうな若い男。

八雲のことを何も知らないくせに最低呼ばわりか。

さっきまで八雲の態度に腹をたてていたのは自分自身なのに
そんな気持ちが沸き起こり、いかに自分が八雲のことが好きなのかがわかって
泣きたい気分に拍車がかかった。


どうして、こんな時にそばにいるのがこんな見ず知らずのナンパ男なのだろう。
どうして、八雲は迎えに来てくれないのだろう。
そもそも、どうして、八雲とケンカなんてしてしまったんだろう。
どうして、八雲の前では素直になれないのか。

もっと、笑顔でいたいのに。
もっと、可愛いって思われたい。
私のこと、好きになってほしいのに。

どうして、私は、いつも・・・。
悔しいのか、悲しいのか、自分でもわからない。
ただ涙があふれてくる。
だけど、こんな奴の前で泣きたくない、と歯を食いしばる。
そんな時だった。
うつむいた晴香には声しか聞こえなかったが、
いつの間にか聞き馴染んだ不機嫌そうな声のおかげで
その人物がだれなのか、すぐに見当がついた。


「最低な奴で悪かったな」


ナンパ男は八雲に突っかかろうとしたのだろうが、
その左目を見た瞬間にひるんですぐに去って行った。

八雲は何事もなかったかのように無言でそれを見送ると
寝ぐせだらけの髪をかいてだるそうに口を開いた。


「…泣いているのか」


普段通り、やる気のなさそうな声。
しかし、晴香は焦りと困惑が混じっていることに気づいてしまった。
気づかなければまだ我慢していられた。
こんな、不特性多数の人がいる街中で、泣くこともなかっただろう。

けど。

その、わかりづらい気遣いが隠れた、晴香を慰めるような声の響きに、
もともと緩んでいた涙腺はあっけなく崩れた。


「・・・っ八雲君の、・・・馬鹿っ!」


涙声のかすれた声で言ってもなんの迫力もないことはわかっていたが、
言わずにはいられなかった。

「馬鹿・・・っ、・・・馬鹿・・・」

八雲君が早く来てくれれば、あんな男になんて絡まれなかったんだよ。
八雲君が皮肉なんて言わなければケンカにだってならなかったのに。
全部、全部、八雲君のせいなんだから。

ああ。また可愛くないことを言っている。
そう思っても、口は閉じずにまた罵る言葉を吐く。
そんな自分が自分で嫌になった。

こんなんじゃ、嫌われてしまうかもしれない。

そう思って怖くなるが、素直じゃない口は謝罪の言葉を紡ごうとはしなかった。
ただうつむいて洟をすすった晴香は、八雲のため息を聞いて小さく震えた。

八雲の反応が気になるが、怖くて動けない。
そんな晴香の心をよんだのか否か、八雲は黙って晴香を抱き寄せた。

「馬鹿は、君だろう」

「っ・・・!」

まるで宝物に触るように、そっと晴香の背に触れる八雲の腕がやさしくて、
晴香は息をのんだ。

「なによ・・・。馬鹿っ・・・」

だけど出てきた言葉は結局それだけ。
しかし八雲は気にしたふうもなく抱き寄せる腕に力を込めた。

「うるさい」

「っ・・・」

いつものように口は悪いのに、どこか甘やかすように背をぽんぽんと撫でられた。

そうしたらなんだか涙がさらにあふれてきた。
情けない気持ちでいっぱいだった。

しばらくそうしていると、頭が冷えた。

八雲は嗚咽が止まった晴香の様子に気づくと
背を撫でていた手で晴香の頬をつねった。
先ほどまでとの差に晴香は面食らう。

「・・・本当にトラブルメーカーだな、君は」

冷静になった頭では何も言い返せずに唸っていると、
八雲は眉間にしわを寄せながら続ける。

「君は携帯の意味をちゃんと理解しているのか?・・・そもそも、鞄ごと忘れるなんて君はどこまで馬鹿なんだ?」

「そ、それは・・・つい、その勢いで・・・」

もごもごと言い訳をすると八雲は今日最大のため息をつくと晴香の額を弾いた。

「それで?誰が馬鹿だって?」

「う・・・」

でも、ケンカになったのは半分は八雲君のせいだよ!
精一杯の反論は、唇に吸い込まれてしまった。

ここがどこかを思い出して真っ赤になったら
八雲はいくぞ、とそっけなく言い放って晴香の手を引いた。

その八雲の耳が赤くなっていたのに気づいて、
晴香は八雲に気づかれないように笑った。
そして、いつのまにか機嫌が直っている自分に気づいて
敵わないなあ、と苦笑に変える。

なんだかくやしいから、
迎えに来てくれてうれしかっただなんて、絶対言ってやらない。



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マツヨイグサ
花言葉:無言の恋・静かな恋



なんだかいつも似たようなシチュエーションになってしまう・・・。
私の書く晴香は泣いてばっかだなぁ。
終わり方もいつものごとくなげやりっぽい・・・。
タイトルも意味分かんらんしな・・・;


君子~の続きを書かなきゃなんですが、
いつになるか・・・。

構成は大体できているのですが、
そうなると私の中で完結してしまっているので
なかなか形にならないという・・・。←

こんなのが今年最後の更新でごめんなさい。
八雲君更新が12月はこれだけってどうなの・・・。
しかも前の八雲更新から1カ月過ぎているという・・・orz

なにがメインジャンルかわからなくなっているサイトですが、
来年もよろしくお願いします。

それでは、よいお年を~。

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