※この設定を受け入れられる方のみ、お読みください
たどり着いたその村は、霊力に満ち妖魔が溢れる危険な地だった。
俺、井吹龍之介は、どこにでもいる貧乏でちょっと不幸な普通の人間だ。
ただ、わけもわからず幽霊とか妖怪とかにちょっかいをかけられ、
とても迷惑していることは、普通の人間では珍しいのかもしれない。
最初は大して気にしていなかったが、
職を失い、家まで焼かれ、婚約者にも逃げられ、
もうここまできたら普通だったらなんとかしなければいけないと思うだろう。
とにかく、ここまで来たのはここの近くの山を越えた所にいるらしい
有名な噂の超有能陰陽師に相談する為だ。
しかし、いくら歩いてもなかなか山には近づかない。
同じところを歩いている気分にもなる。
もう日は暮れたし、そろそろ身体も限界だ。
どこかに宿はないだろうか。
足を止め、木にもたれかかって座ると
どこからだろうか、女の声がする。
茂みの奥から現れたのは、
まだ十代だろう幼さが残る美しい造形ながらも美人というよりは可愛い娘だった。
「珍しい・・・。旅の方ですか?でも、この村に来ても、もうどこへも通じてませんよ?」
「何?!」
どうやら、道が間違っていたらしい。
落胆したところで、天使の声がかかる。
「・・・行くところがないのなら、私の所に来ますか?」
「いいのか?!」
「ええ。久々のお客様ですし、精一杯おもてなしします」
「助かる」
こんな上手い話があるだろうか、と思いつつも世間話をしながら
その娘―――雪村千鶴と言うらしい――の後について行く。
どうせここにいたって狼や熊にやられる可能性があるのだ。
どこにいても同じだろう。
だったら、この純粋そうな娘を信じてみよう。
一見して、優しそうな瞳には嘘や裏はなさそうだ。
雪村は高級そうな着物をまとい、肌艶もよい。
きっと、良いところの娘なのだろう。
まだ自分には少し運が残っていたようだ
と安堵したところで、第三者の男が現れた。
これまた美形で長身の無駄なく筋肉がついた体躯の男だ。
村の娘達が見たら騒ぐに違いない。
「千鶴?なんだそいつは?」
「龍之介さんです。先ほどこの村に着いたそうですよ。道に迷われたようなので、我が家にお誘いしました」
「おいおい。千鶴。いいのかよ。土方さんが見たら激怒だぜ」
「大丈夫ですよ。私がお話しますから」
「・・・まあ、千鶴が良いなら俺は構わねぇけど・・・」
「あ、龍之介さん、こちらは原田左之助さんです」
「よろしくな」
「・・・ああ。よろしく・・・」
どうやら、雪村の連れらしい。
土方という男が家主なのだろうかと考えていたところで
木の根に躓いた。
「うわっ」
暗くて気づかなかった。
しかし、条件は同じだろうに雪村も、原田もよどみなく進んでいる。
まるですべて見えているかのようだ。
「あ!大丈夫ですか?」
「ああ。・・・お前ら、よくそんなに早く歩けんな」
「・・・私たちは、その、歩き慣れていますから」
「・・・それもそうか」
地元ならばそういうものかもしれない。
納得した俺に雪村は安心したように、男――原田――は呆れたように笑った。
そんな様子に少し首を傾げたところで、
大きな屋敷にふさわしい立派な門構えが見えた。
「・・・捨ててこい、千鶴」
屋敷の広間に通されて、やはり美形ぞろいの雪村の家人達が勢ぞろいしている中で、
一際目立つ美形で美しい黒髪、紫の目を持つ偉そうな男が開口一番低い声で呟いた。
「歳三さん!」
「ガキが男拾ってきやがって・・・。犬や猫とは違うんだぞ」
「ガキではありません。もう私だって姫巫女に就任したんですよ」
「・・・俺にとっちゃ、お前はまだまだガキだよ」
「もう。すぐ子供扱いするのは止めてください」
「ま、そう怒るなよ千鶴。可愛い顔が台無しだぜ」
「さ、左之助さんまでからかうのは止めてください!」
「・・・案ずるな、千鶴。お前は怒っていても十分可愛い」
「・・・一さん・・・」
「斎藤のやつ、美味しいとこ取ってきやがって・・・」
「でも、美味しそうな子だよね。龍之介、っていったかな。まだ若いし食べごろだよね」
「そ、総司さん!!」
「土方さん、捨てるのなら僕にくださいよ」
「馬鹿言え。お前にくれるぐらいなら魚のえさにする」
「と、歳三さんも冗談はやめてください!」
「冗談?ははは。ひどいなぁ千鶴ちゃん。僕は本気なのに」
いったい何の話だ。
青い顔をしながら黙っていると、風が吹いて
一匹の鳥が入ってきた。
しかし、次の瞬間、驚くことにその鳥は人の姿へと形を変えた。
「平助」
「・・・あれ?何そいつ。人間?」
「は?!」
「たいして霊力ないし、食うとこあんの?ま、匂いはうまそうだけど」
「へ、平助君!」
「なんだよ、千鶴。こいつまたいつかの生贄とかじゃねーの?」
「生贄・・・?」
「平助!!」
「きゃっ」
「うわっ!!いってぇ・・・。何も本気で殴ることないだろ左之さん・・・」
「落ち着けふたりとも。冷静なれ」
「・・・悪い、平助」
「いや、今のは確かに俺も悪かったけど・・・」
生贄だの怪しい言葉はとりあえず置いておくとして、
さっきの変化はいったい何だ。
「・・・お前ら、いったい・・・」
「あれ?千鶴ちゃん、もしかしてまだ言ってなかったの?」
「ぅ。その、やっぱりこういうのは順序があるのでは、と・・・」
「あははは。まあ、実際に見せた方が早いかな、確かに」
沖田と言うらしい、その男がそう言った途端、
その目が金に光る。
そして次の瞬間には耳や尾が猫のように生えていた。
爪はまるで魔女のように長く鋭い。
「な、・・・!」
絶句していると、自己紹介と言わんばかりに
雪村以外の男たちが姿を変える。
「・・・いや~。にしても、この姿久々だな」
「・・・必要がねぇからな」
「ふふふ。一さんにはお願いしてよく変化してもらいますね」
「・・・あんたの頼みならな」
原田は狐だろう。
何本も生えている尻尾がふさふさと揺れている。
耳がぴくりと揺れるのは、何かを感知しているのか。
鋭く長い爪は磨いでいそうだ。
斎藤一は犬か。
尾や耳を雪村が嬉しそうに触る。斎藤は満更でもなさそうに頬を赤くしている。
雪村は犬派らしい。
土方は、天狗だろか。
黒い翼に長い爪。鋭いその眼差しは、獲物を捕えて離さない。
平助という男は先ほどは完全な鳥型だったが、
今は人型に翼が生えているだけのようだ。
3パターンの変化が出来るらしい。
いったいどれが本来の姿なのか。
とにかく、その姿は人間と呼ぶにはあまりにもかけ離れていた。
「お前ら、人間じゃないのか・・・!?」
「あははは。これで人間ですって言ったら信じるの?」
「・・・それは・・・。あ、・・・さっき言ってた生贄ってまさか雪村・・・!?」
「それは違うよ」
今まで冗談交じりだった沖田の口調が、いきなり厳しく変化した。
なにか逆燐に触れたらしいことに気づいた龍之介だが、
どうしようもない。
「私は変化こそ出来ませんが、一応人外ですよ」
沖田の怒りをほぐすように雪村は口を開く。
泣く子も走り去って逃げていくような雰囲気の沖田に怯まないのは慣れているからか。
「しかも地位的に超高等だから、人間ごとき君が千鶴ちゃんに触らないでね?」
「総司さん!」
「・・・妖にも、身分差があるのか・・・?」
「千鶴ちゃんは妖じゃないよ。神の血筋をひく子なんだから」
「・・・」
噂に聞いたことがあった。
神と鬼の血をひく姫巫女の存在。
鬼とは、神が人界に墜ちたもの。
故に姫巫女は人界に住む。
その霊力は無尽蔵。
その血は飲めば寿命が延び、その肉を喰らえば不老不死になるという。
神古代はそれ故に狙われることが多く、その親である神と鬼はいくつかの守護者をつけた。
その甚大なる護りに敵わず、姫巫女が狙われることは少なくなった時期に
人間が生まれたと言われている。
そして人間との争いを愁い避けるためにその身を隠したと。
唯の古い言い伝えだと思っていたが、信じられないことに実際に存在したらしい。
しかも、このような娘と男達だとは。
呆気にとられている龍之介を放置し、
土方はこの姿になったんだからちょうどいいと命令する。
「総司、左之。お前ら今日見回り担当だろ。さっさと行け」
「へーへー」
「では、お見送りを・・・」
「お、ありがとな。千鶴」
「いいえ。私がしたんです」
「・・・千鶴ちゃん、愛してるよ」
「そ、総司さん!!そういうことは・・・!」
「あはは。照れてるの?可愛いなぁ。わかったよ。こういうのは二人っきりの時だけにするね」
「そ、総司さん!?何を言ってるんですか!!」
「あはは。それじゃ、千鶴ちゃん。またね」
「もう・・・」
「千鶴も大変だな」
「左之助さん・・・」
「ま、俺たちの愛を受け止められるのはお前だけだ、頑張れ」
「あ、愛・・・!?」
「本当に真っ赤な顔も可愛いな、千鶴。俺らがいなくても良い子にしてろよ?」
「・・・はい。いってらっしゃい、左之助さん」
「行ってくる。・・・俺も愛してるぜ千鶴」
「っ?!」
「ち、千鶴!あの、俺も、ホントにお前のこと、あ、あ、あ、あい・・・」
「?平助君?」
「千鶴。そこでは冷える。お前はすぐ体調をくずす故、早く中に入れ」
「はい、ごめんなさい。一さん。・・・平助君も行こう?」
「・・・・・・・・・・・あ、ああ。」
「?」
なんだかんだと全員でお見送りを終える。
いったいこの逆ハーレムは何だ。
「な、なぁ、じゃあ、さっき言ってた生贄って・・・」
「・・・俺たちのことに首を突っ込むな」
「なっ・・・」
「・・・人間、俺たちは妖だ。その気になればお前を殺すのは造作もないことだと、覚えておけ」
「・・・」
土方のあまりの眼力に言葉もでない龍之介の名を呼ぶ声があった。
雪村だ。
「・・・ごめんなさい。みんな悪い人達ではないんですけど、ちょっとぴりぴりしてるんです」
人間とはめったに関わりませんから、と申し訳なさそうな顔で謝られるが、
基本的に雪村には謝られるようなことはされていない。
え、いや・・・なんてしどろもどろに返す。
なんとなく小動物のような雪村に謝られると、
こちらが悪い気がしてくるから不思議だ。
「あ、あのさ」
とりあえず話を逸らそうと口を開くと同時に腹がなった。
あまりにも大きな音に雪村は普段からこぼれそうなほど大きい目をさらにを見開く。
そんな様子に龍之介は少し顔を赤くしながら頬をかく。
「あ~~~・・・。・・・これは、その、ここ数日ろくなのくってなかったから・・・つい・・・」
しどろもどろに言い訳すると、千鶴はくすくす笑いながら
まさに女神のような優しい提案をしてきた。
「龍之介さん、お疲れのようですし、しばらくここに滞在してはいかがですか」
「え?!いいのか?!」
「はい。どうぞ、ゆっくりしていってください」
「・・・それは・・・俺は助かるけど・・・。でも、あいつらは・・・」
「大丈夫ですよ。・・・みなさんには、私からお願いしてみますから」
あの連中が自分を受け入れるとは思わなかったが、
しかし雪村の存在は大きいようなので
ここはにっこりと笑う雪村の言葉に甘えることにした。
数日歩き倒しだったので正直足腰も限界だったし、
空腹と今までの出来ごとで精神的にももう疲れ切っていた。
ここですこし休めるのは大変ありがたいことだった。
しかしながら、あの男達の手前、無理かもしれないという
気持ちは消えなかったので、原田と沖田が帰ってきた後、
雪村からの話の場に居合わせた龍之介はどこか気もそぞろだった。
しかし。
そんな龍之介の想いはなんのその。
「お願い、か・・・」
「はい」
千鶴からの滅多にないらしいお願いや頼み事は、
命令と同じ、もしくはそれ以上の効果をもたらしたようだった。
「・・・お前のお願いとあっちゃ、俺らが断れるわけがねぇな。・・・わかったよ」
「ありがとうございます!歳三さん!」
「お礼は千鶴ちゃんからのキスがいいな、僕」
「えええ?!そ、総司さん?!」
「あはは。冗談だよ。本気にしてくれてもいいけど」
「・・・」
「・・・左之さん、なんかやらしいこと考えてるだろ?」
「左之がいやらしいことなどいつものことだ。ほおっておけ平助」
「ひっでぇな、斎藤」
「お前ら、ごちゃごちゃうるせーぞ!!少しは黙ってらんねぇのか!!」
騒がしくて、乱暴で、優しいかと思えば怖くて、
千鶴のことになると見境がなくなる彼ら。
そんな彼らの領域に入り込んでしまった自分はこれからどうなるのだろうか。
雪村の好意に甘えた結果だとしても、なんとなく後悔がこみ上げてきて
途方に暮れた気持ちになりながら、龍之介はこれからの日々を愁いた。
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久々メインジャンル更新!
というか、薄桜鬼自体の更新が久しぶり過ぎる気が・・・。
ところどころネタを混ぜ込んでるのにだれか気づいてくれますよーに!
シリーズものとしては4つめ?ですが、
話の流れ的にはこれは1話目ですね。
本当は龍之介を出すつもりはありませんでした。
でも、なかなか話が進まないし、(みんなが千鶴ちゃん愛過ぎる)
説明がないと読んでる方もわからない状況になるだろうと
急遽、読者側の龍之介君の誕生です。
黎明はやってないので、キャラや口調、接し方など違いが
多々あると思いますが、御容赦ください。
会話中心で誰が誰だかわかりづらい文で申し訳ないです・・・。
まあ、私の書く文章が読みづらいのはいつものことですしね!
・・・なんて開き直ってすみません。
少しでも楽しんでくださったら幸いです。
続き書きたい・・・が、文章がまとまらない・・・。
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